***********
「桐生っ!!」
午前の診察の最後の患者が帰って間もなくだった。
矢野が僕の診察室に飛び込んできた。
その勢いと必死な表情に、僕は瞬時に嫌な予感に襲われた。
「あいちゃんが倒れたって運ばれてきた!」
ガタンっ!と音を立てて立ち上がった僕はそのまま診察室を出て、救急患者が運ばれる救急外来へ走り出していた。
「あいっ!!」
救急外来のドアを力任せに開けて、中に駆け込む。
入口近くのベッドに寝かされているあいの姿を見て。
血の気が引いたような青白い顔をした彼女を見て。
僕はドクッと胸に痛みが走った。
冷たくなった“あの時”のあいの姿と重なって、胸を襲う痛みに意識が遠のきそうになる。
「桐生」
僕の後ろに立っていた矢野に声をかけられて、ハッとした。
ダメだ。
僕がしっかりしなくては。
今の僕はあの頃の僕とは違うんだから。
ただ消えゆくあいを見ていることしかできなかった“あの時”の僕とは違うんだから。
「あいちゃん、仕事中に急に胸を押さえて倒れたらしい」
「そう・・・それで今の状況は?」
矢野の固い声に気持ちを落ち着かせるために一つ、息を吐き出して僕はどうにか冷静さを取り戻しながら、矢野を見た。
「大丈夫だ。特にどこにも異常はない。心電図を取ってるけど、波形にも異常はない」
「そうか・・・・・ありがとう」
僕はそう小さく呟くと、矢野からあいに視線を戻した。
意識のないあいはただ静かに眠っていた。
その表情は苦痛に歪んではいない。
“あの頃”みたいにあいは消えたりしない。
僕は眠るあいの顔を見ながら、もう一度、心の中で自分に言い聞かせた。

