僕が近づくと、あいはより一層笑顔を深めて嬉しそうに吐息を零す。
そして手に持っていた花を僕のシャツの胸ポケットに挿した。


「うん、よく似合ってる」


満足げに笑うあいに僕は苦笑いする。


「花が似合うって男としてどうなの?」


「男の人でも似合う人は似合うの。圭さんは綺麗でかっこいいんだから、当然似合うの!」


僕の言葉に拗ねたように口を尖らせて、頬を膨らませているあいが可愛くて。
僕も足元に咲いていた赤い花を摘むと、彼女の横に束ねた黒髪に挿した。


「あいの方がよく似合うよ。綺麗なのは僕よりもあいだからね」


微笑みを向けてそう言うと、あいは真っ赤な顔をして恥ずかしそうに俯く。
その赤く染まった頬に触れたくて、僕はそっと指先を伸ばした。


いつもは冷たいあいの頬はほんのりと温かくて。
柔らかな彼女の頬を包み込むように、手を添えた。


重ねるだけの口付けを落として、僕は腕の中にあいを閉じ込めた。


「あい、愛してるよ」


「私も圭さんが大好き」


抱き締めた僕の背中にそっと両手を回して、抱き締め返してくれるあいが何よりも愛しくて僕は細いその体をギュッと抱き締めた。





お願いだから、僕の前から消えてしまわないで。




心で唱えるのはいつも同じ言葉。


細くて儚いその背中を抱き締めながら、僕はその言葉を心の中で何度も繰り返していた。