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【前世/圭の記憶】


「あい、そんな風に走るとまた苦しくなるよ」


僕は小さな花が咲き乱れる野原で嬉しそうにはしゃぐ目の前の彼女に声をかけた。


天気が良くて、温かで穏やかな風が心地いい。


久しぶりの外出にあいはとても嬉しそうだ。
普段は病院のベッドの上で過ごしてばかりいる彼女だからそれも当然だと思う。


「圭さん!」


僕から少し離れたところで立ち止まって、こちらを振り返る彼女が満面の笑顔で手を振っている。
温かな陽の光に照らされる彼女はキラキラと輝いていて、本当に綺麗だった。


普段、滅多に陽を浴びない彼女の肌は透けるように白くて。
嬉しさに顔を綻ばせる彼女の頬は、桃色に染まっていて。
僕の名前を呼ぶその唇は紅を引いていないのに、引き寄せられるほど赤い。
緩やかな風に揺れる黒髪も、その細い体も。


僕には彼女のすべてが愛しくて堪らない。