私はマンションに帰った。
玄関には母の靴があった。
やっぱりいるのか……。
帰ってくれていればいいという期待も虚しく、覚悟を決めてリビングに入った。
「ただいま」
「朋花、待ってたわ。今日は怒らないからちゃんと話しましょう」
怒られる理由はないはずだけど。
まぁ、ちゃんと話さなければ始まらない。
「単刀直入に言うけど、私はKissMagiaをやめるつもりよ。他の職場で働きたいの。そして雄馬とは同棲もしません。このマンションも出ますから」
母は目を丸くしている。
「ほんとにいきなりすごい事を言うのね。そんな簡単に仕事がみつかるわけないわ。それにこのマンションを出てどこに住むの?」
坂口さんのアパートにいる時に考えていた事があった。
「シェアハウスを探すわ。アパートはちょっと不安だから」
「シェアハウスってなんなの?ダメよ!パパが許すわけないわ!」
だから、許さないなら何をするの?
昔のお姫様じゃないんだから、連れ戻しに来るとかないでしょう?
「シェアハウス知らないの?パソコンで調べたら出てくるわよ。あ、仕事が決まるまでKissMagiaで働かせて下さい社長。そしてここにもそれまで住まわせてもらえませんか?ダメなら安いアパート探します」
やっぱりまだまだ親を頼りにしないと、何も出来ないのが悔しい。
「もう頭が変になりそうよ。とにかくここにいてちょうだい。帰ってからパパに話さないといけないし」
「そうでしたね。お父さんにここにいることは許してもらわないと、お父さんがダメだと言うならすぐに出ていきます」
「そういうことじゃなくて、パパは朋花がここにいるから安心してるのよ。出て行かないで」
「わかりました。仕事がみつかるまでは出て行きません」
「なんでそんなにママを悲しくさせるの?」
母は神戸に帰った。
私は化粧をしてまたKissMagiaに戻る。

