魔法のキス


ピンポンピンポンピンポン


ピザ屋だ。
忙しいんだから早く開けろという風に呼び鈴を鳴らすのは、ピザ屋や宅配業者の自己中心的な行動のようで私は嫌いだ。


「はいはーい。今開けますのでー」


坂口さんは怒ることもなく、ピザ屋にすみませーんとか言っている。


私も立ち上がり
「おいくらですか」と聞いた。


「こちらLサイズのご注文となっておりますので、3500円になります。こちらはサービスのコーラ2本です」


私が代金を払い、ピザ屋は形通りのお礼を言って帰って行った。


「店長すみません。えっーと私の分1800円ですね」


「いいのよ、今日はお世話になるんだから、一宿一飯の恩義ということで私に出させて下さいね」


「そんな、お世話なんて。こんなところなのに。お布団もひとつしかないんですよ」


えっ?
坂口さんと同じ布団で寝るのか。


6畳しかない部屋でふたつ布団を敷くことも出来ないし、お客さん用の布団なんてないだろうし、当たり前と言えば当たり前なのだ。


「私は大丈夫よ。襲わないから」




「あ、店長寒いですよね。コーンスープ作りますね、お湯を注ぐだけのですけど」


確かにこの部屋は寒い。
暖房はファンヒーターだ。
でもすきま風が入ってきているから、すごく暖かいとは言えない。