うなずきながら聞いていた坂口さんが、私に思う存分話させてから口を開いた。
「いろんなことがあったのですね。私にはわからない世界と言っては失礼かもしれませんが、私は平凡な家庭で育ちましたから店長の苦労は想像でしかわかりません。でも自分というものを無視された辛い気持ちはわかります。全部をわかると言ったらそれは嘘になりますし、これからのこと私も協力できることはさせて頂きますので」
坂口さんは人の気持ちのわかる人だ。
ただただ、わかるわかるとか言ったり、相談されてるからと、無理にアドバイスを言ったりするようなことはしない。
人の話をちゃんと聞ける人なのだ。
相談するものはアドバイスが欲しいわけではないのだ。
それを知っている。
「ありがとう坂口さん。私ね、自立したいの。親の作ったお店で働くんじゃなくて、他の仕事をしたい。だからKissMagiaの店長を坂口さんにやってもらいたいの。もちろんそれは社長が決めることになるんだけど」
「私は決まったことはちゃんとやらせて頂くだけですが、でも店長はKissMagiaの店長がすごく合ってる気がしましたけど……そうですね、自分のやりたいことがあればそれをやらないと後悔しますから。応援します」
KissMagiaの店長が私に合ってる?
そうかもしれない。
でも親の作ったお店じゃなかったらの話だ。
私は親から自立しなければいけない。
「もし、坂口さんが店長になったら、もっとお店の近くに引越したら?ここからは遠いでしょ?」
余計なことかもしれないが、何故東村山市に住んでいるのか、知りたい気持ちもあった。
「そうですね。もしそんなことがあった時には考えますが、私は実家が隣の小平市なんですよ。だから小平とか東村山が好きなんです。通勤は1時間以上かかりますから大変は大変なんですけど」
実家が小平市なら何故わざわざ東村山市に?
「何故実家からこちらに?」
「私もやはり実家にいるとついつい甘えてしまうんです。これも自立のひとつですね」
自立という言葉に2人はおかしくなり、2人で笑ってしまった。
「自立は大事ですよね。あはは」
「そうです。親は干渉してくるし」
どんな環境で育っても、親子というのは同じなのだ。
私は世間に出て、もっともっといろんなことを知ることが必要だ。

