魔法のキス


タクシーを降りて、坂口さんに電話をしようとすると、アパートの2階から声がした。


「店長、どうぞ上がってきて下さい」


そう言えば住所のアパート名の後に、201号室とあったのだった。


ここは東村山市だ。



タクシーの中からどんどん風景が田舎のようになってきたので、間違っていないかと不安だった。


東村山市には、 はじめて来た。


タクシーでもかなり遠く感じたのだから、坂口さんは電車や地下鉄を乗り継いで来ているのだろう。


私は2階に続く階段を上った。
手すりにつかまりたかったが、ところどころすごく錆びていて、錆びていない場所を指で押さえるようにしながら上った。


かなり古いアパートのようだ。


「すみません。こんなところで」


何故坂口さんが謝るのか、よくわからなかった。



「いえ、突然押しかけてごめんなさいね」


「散らかってますがどうぞお入り下さい」


靴が3足くらいしか置けないくらいの玄関に、靴を脱ぎお邪魔した。


畳は日に焼けて色が変わり、所々はげたようになっている。


でも部屋の中はキチンと整理され、清潔にしているのが一目見てわかる。