嘘つきキャンディー


言いながら、私は鏡を覗いたまま絆創膏のふちをカリカリ引っ掻いた。

結構粘着力があるようで、中々剥がれてくれない。


「取っちゃうの?」

「当たり前でしょ。
てかこれからバイトあるのに、こんなんで行けないじゃん。」

「そーかなぁ。私イケるけど。
包帯とかもしてったら?そういうの好きな人いるよ。」

「ねーよ、変態。」


そう吐き捨てると、カメ男は何故か不満そうに少しだけ唇を尖らせた。


黙ってれば美人なのに、この変態はつくづく損をしている。


そうこうしているうちに、私の頬の絆創膏がやっと取れてくれた。


しかしそこには矢野が言っていた通り、そこそこ目立つ引っ掻き傷がある。

おまけに矢野のおかげで、絆創膏の痕もキレイに残っている。


「矢野…、余計なお世話すぎる。」

「矢野先生ってそんなことしてくれるように見えないのにね。」

「今まで話したこともなかったけど、なんか胡散臭いヤツだったわ。
裏がありそうな感じ。」

「…それ、私達言えないでしょ。」

「………。」


カメ男に言われて、私はつい黙ってしまった。


確かに、カメ男の言う通りだ。

矢野のことは知らないけれど、もし本当に矢野に裏があったとして、私達にそのことを言う資格はないだろう。


私とカメ男が常に一緒にいる理由は、ここにある。

私もカメ男も、素で接することができる人間がお互いしかいない。


カメ男は隠れヲタク。

私はぶりっ子。


まぁ、私のぶりっ子に関しては、勿論男子が対象ではある。

しかし共学である私の高校で、男子の目を気にしない時はない。

常に可愛くなくてはいけないのだから、自然と校内にいる間は言葉だって気をつける。