完全に力が抜けてしまっているカメ男のおかげで、若干ヨタヨタしながらもリビングのドアまで進む。

やっとノブに手を伸ばした所で、その腕を横から掴まれた。


久しぶりの冷たい感触。

それがじんわりと広がれば広がるほど、身体の芯が熱くなる。


「遠慮しなくていいですよ、清水さん。別に怒っていませんよ。
圭人と何か約束があって来ているんでしょう?」

「えっ、でも…、」


高鳴る心臓の音に急かされるように顔を上げると、私の身体の熱は一気に引いてしまった。


だってそこには、鬼か、悪魔か。

そう見紛うほどの冷たい微笑みを浮かべた先生と、遂に目が合った。


「それに、あなたに調度話があるんです。清水さん。」


ひ、ヒイィィィ……ッッ!!!


先生の私の腕を掴む手に、じわじわと力が入る。


「そうだ。今から昼食を買いに行くので、一緒に選んでくれませんか?」

「わ、私達も一緒に行くってことですか…?」

「“私達”…?」


クスッと微かに口角を上げると、先生は私の腕にもたれるようにして立っているカメ男に視線を移した。


「亀尾さんはその様子だと難しそうですから、」

「え…。」

「僕と二人では嫌ですか?」


い、嫌だっっ!!


心の中でそう叫んだのと同時に、私の口は勝手に『ハイ』と呟いていた。

その回答に、先生は満足そうに瞳を細める。