「そういえば、さっき波瀬くん来たよ。」
「あー、もう別れたから。」
「あれ?真名子と一緒に帰りたかったみたいだけど…。」
「ありえないでしょ。」
表情は笑顔のままで、そう吐き捨てるように言った私に、カメ男は不思議そうな顔で私を見つめる。
「何かあった?」
「…取り合えず出ようよ。」
そうカメ男を促すと、カメ男も小さく頷いて、机の横に掛けていたカバンを肩にかけて私の席から立ち上がった。
二人で無言で靴箱まで行くと、数人の友人に囲まれて歩く野々宮さんと会った。
彼女達もこれから帰るらしい。
野々宮さんの瞳はまだ赤くて、私と目が合うと眉を歪めて俯いた。
野々宮さんの周りの友人達も、そんな彼女の様子に気がついてか、私の方に目をやる。
すぐに目付きが鋭いものに変わった。
ほら見なよ。やっぱり私が悪者なんじゃない…。
誤解、とは言えない。
確かに私は、そう思われても仕方がない行動をとってきた。
しかしこれだけは言っておきたい。
これまで男に対して思わせ振りな行動はとっても、自分から言い寄ったことは一度もない。
つまり餌はやっても、自分から釣り上げるようなことはしない。
ヤツらが自力で這い上がってくるのだ。
もちろん野々宮さんの彼氏だったらしい波瀬くんも例に漏れず、私の吊るした餌に食いついて自力で這い上がってきた内の一人だ。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
基本的にはこれが私のスタンスだが、彼女持ちとなると話は別だ。
知っていたらさすがに拒んでいた。
結果がこうなることを予想できない程、私はバカじゃない。

