「でも、清水さん可愛いから付きまとわれたら…。」

「心配してくれるの?山本くん優しいね。」


少し首を傾けてニッコリ笑うと、山本くんの顔がみるみる内に赤くなっていった。

ゆでダコみたいになった山本くんは、『そ、そうかな』なんて吃りながら照れている。


「なら、もし俺に役に立てることがあったら何でも言ってね。」

「じゃあ早速お願いしてもいいかな?」

「なっ、何?!何でも言って?!」

「これ、矢野先生に出してきてほしいの。
実は今日これから用事があって、すぐ帰らなきゃいけなくて。」


そう言って差し出したのは、化学の春休みの課題とプリントの冊子。


ざっと20枚はあったあのプリントを、私はしっかり仕上げてきていた。


こんな雑用で申し訳ないけれど、今は矢野先生に会いたくない。

何故だが分からないけれど、少し気まずい。


「任せて!俺、化学の教科係だし。」

「ありがとう。」


すごくいい笑顔で受け取ってくれた山本くんに益々良心が痛みながらも、私は教室を出ていく彼の背中に心の中で謝った。





「さっきのは酷かったかもね。」


校舎を出て駅に向かう途中、カメ男が言った。


先程の山本くんの件だと思う。


「…うん。私もさすがに良心が痛んだわ。」

「でも山本くんは幸せそうだったよ。」


『ドMなのかな』と、カメ男は真剣な顔で呟いた。


それは分からないけれど…、

多分あの人は確実に私のことが好きだと思う。