いつの間にか足を止めていた私に、ベンチに向かって真っ直ぐ歩いていた後ろ姿がゆっくり振り返った。


「おい、お前。何して…、あ?」

「あ…。」

「………。」

「………。」


お互いの間に流れる微妙な空気。沈黙。


予想した通りだから大して驚かないつもりだったけれど、正直彼の別人ぶりにちょっとビビっている。


矢野梓……、じゃないかもしれない。


だってめっちゃ目付き悪い!!


そういえば口も悪いし、学校での爽やかな矢野梓とは真逆の位置にいる。


顔以外全部悪いよこの人!!!


「…ちょっと待て。ちょ、整理するわ。」

「は、はい…。」


眉を歪めて頭を抱える彼の横顔は、どこか色っぽくも感じる。


このムダな色気…。

やっぱり矢野梓だ。


暫く黙って彼の横顔を見つめていると、自分の中で整理がついたのかその茶色の瞳が私をとらえた。


「なぁ。お前、」

「はい。」

「…双子の姉妹とかいる?」


……何言ってんだこの人。


「いません。」

「そうか…。」


どうやらまだ混乱しているらしい。


正直、それはこっちの台詞だ。

あなた双子の兄弟が、高校で爽やかな化学教諭をしていたりしませんか…?


そんなことを思っていると、彼は『はぁ…』と深いため息をついて、先程よりもふらふらとした足取りでベンチに座った。