眼鏡越しの恋

放課後、HRが終わってすぐに、匡がやってきた。
その早さにびっくりしていると、いつの間にかそばに来ていた美香がニヤニヤと意味ありげに笑っている。


「瀬能君、早いねぇ」


「あ?」


美香がニヤけた笑顔を匡に向けると、匡は機嫌の悪そうな顔を隠そうともしないで睨むような視線を返す。
でも美香には通用しないのか、表情は変わることなくニヤけたままで。


美香のこういうところ、すごいと思う。


ちょっと前まで“瀬能君ファン”を自称していた美香の姿が信じられないくらいに、美香は匡とごく普通に・・・いや、匡の態度を面白がるほど余裕な雰囲気で接している。


「ちゃんとご指示通りに死守しましたよ?」


なんて、ニヤッと笑いながら言うあたり、ホント美香って怖いもの知らずだと思う。


「あぁ・・・助かった、サンキュ」


でも匡も素直にお礼なんて言うから、私の方がびっくりしてしまう。
匡はどこか困ったように軽く眉を顰めているけど、美香の意味ありげな表情や物言いには何も言わなかった。


「いえいえ。それじゃあ、瀬能君。後はお任せします。私も彼と待ち合わせてるから、帰るね。瀬能君がいるから大丈夫だと思うけど、祥子、気を付けてね」


『バイバイ』と手を振る美香はとても嬉しそうに教室を出ていった。