眼鏡越しの恋

祥子の教室について、中を覗くと、俺達に気付いた久保が駆け寄ってきた。
その顔はかなりご機嫌だ。


やっぱりコイツはこの状況を楽しんでるな。


祥子の教室も俺の方と同様、そこにいた全員が祥子に好奇心いっぱいの視線を向けてくる。
とりわけ、呆けたような顔をしている男子達の視線が、苛つく。


あと2時間もここに祥子をいさせなきゃいけないと思うと、本気で拉致でもして帰りたい気分になる。


「瀬能君、わざわざ送ってきたんだね。ふふ、愛されてるね」


「ちょっ、美香!」


久保のからかうような言葉に、祥子が頬を染めて慌てるけど、俺は真顔のまま久保を見た。


「・・・しっかり見張ってろよ、久保」


「ぷっ。了解!瀬能君が放課後迎えに来るまで、死守します」


吹き出しながら、おどけたような台詞を言う久保に、一瞬、俺は眉を顰めたけど、真顔のまま「頼む」とだけ言って、祥子を久保に預けた。


「じゃあな、授業が終わったらすぐに来るから。どこにも行かずに待ってろよ」


久保の隣で状況が呑み込めていない顔をしている祥子の髪を、くしゃっと撫でて俺は自分の教室に戻った。