「俺、経験豊富だからさくらの考えてることわかっちゃうよ?」


カケル君の言葉を聞いてドキッとして、カケル君を見た。


カケル君が口を開いた瞬間、話そうとしたのを遮るように私は言った。

「言わないで!誰にも言わないで。」

あたしが大きな声を出したからカケル君も驚いているみたいだった。
でもすぐに、車を雑巾で拭き始めた。

「誰にも言わないよ。」

と小さめの声で言った。


それからなんとなく沈黙が続いた。

車にワックスもぬった。

「車、洗うのって大変なんだね。」

「そうだろ?でも楽しくない?俺は結構好きなんだけど。」


「うん、楽しいかも。」

あたしたちは百日紅の木の下のベンチに座っていた。

それは今となっては、自然なこと。

カケル君に片思いしてるときは、隣にいれることが特別な出来事で嬉しかった。

今こうして普通に座っていることが去年は想像できなかった。


「さくらに彼氏がいるなんていまだに信じられないよ。」

「それって……………………。」

「それってなんだよ。」

「それってさ、俺のことずっと好きだったのにもう好きじゃないなんて信じられないよ。ってこと?」

あたしの言葉にカケル君は止まった。


「あ…………。いや、そういう訳じゃないよ。子供だと思ってたのに大人になったんだな~と思って。」


「え、大人っぽい?もしかして色っぽい?」

あたしはとたんに嬉しくなって聞いた。

カケル君は首を傾げながら答えた。

「うーん、色っぽくなったよ。前はただのガキんちょだったもんな。」

「そっかぁ。よかったよかった。」

「コウタは?」

「コウタ?あたしに彼氏ができてから優しくなった……、変な感じ。でもいい感じ。」

「あいつもガキんちょだからな。まだまだ思うようにはいかないんだろうな。諦めたのかな。」

「ん?なにを?」

「さくらのこと。告白されたって言ってたろ?」

「ああ、うん。もうなんともなさそう。兄弟でそういう話しないの?」

「しないよ。」

そこにコウタが帰ってきた。

「おかえり。」

「ただいま。」

コウタが不適に笑みを浮かべた。

「俺、彼女出来た。」

コウタの言葉にズキンとした。

「おめでとう!」

カケル君と同時に言った。

もうあたしのこと好きじゃないんだな。とあたしは寂しい気持ちになった。

本当にショックで落ち込んでしまった。

自分勝手だな、とわかってるけど。

コウタに彼女かぁ……。