カケル君がそばにいるのは、自分の気持ち確かめるいい機会かもしれないな。
元々はカケル君を忘れようとして始めたことだし。
それにしてもおばさん、いつ帰ってくるんだろう。
ドアをノックする音が聞こえた。
「俺だけど、入るよ。」
カケル君の声だ。
ドキドキした。
「どうぞ。」
カチャッとドアが開くと、カケル君がニコニコして入ってきた。
「お帰りなさい。早かったね。」
「うん、DVD借りてきたんだ、一緒に観ない?」
カケル君はまっすぐあたしを見つめている。
こんなことあったかな、なんか感じが違うかも……。
「今はやめとく。やることあるから。」
何となく断った。
書かなきゃいけないレポートがあるから。
違う。
そんな理由じゃない
コウタが怒るかもしれないから、断ったんだ……
二人でDVDなんか観てたらまた機嫌わるくなりそう。
机に向かってレポートを仕上げていた。
1時間くらい経った頃ドアをノックする音がして、ドアがあいた。振り向くと、カケル君が立っていた。
「どうしたの?」
あたしが言うとカケル君は入ってきてベッドの上で胡座をかいた。
「夕飯何がいいかな、と思って。」
「あぁ、夕飯……そうだなぁ……」
真剣に考え込んだ。
「………………シチューとか?」
考えた末に出た答え。特別食べたいわけでもないけど、いいのではないかと予測して言ってみた。
ほんとは何でもいい。
でも何でもいい。って言われるのが一番困るってママがよく言ってたから、カケル君には気を使って言わなかった。
「よっしゃ、じゃあビーフシチューにする。」
そう言って立ち上がると、あたしの机をのぞきこんだ。
「懐かしいな、レポート。」
カケル君は、机に手をついていて、あたしと距離がすごく近くなった。
あたしはゆっくり気づかれないように少しだけ離れた。
「さくら、俺さ……」
カケル君が静かに何かを言おうとした時、スマホの呼び出し音が鳴り響いた。
「あ、あたしの。」
着信画面は河瀬君からだった。
「出なよ。」
カケル君が言ってあたしは電話に出た。
カケル君は部屋から出ていった。
河瀬君の電話は今から会えない?ってことだった。
うちのそばに来ているらしい。あたしは慌てて家を飛びだした。
自転車で駅に行った。
駅前をうろうろしている怪しい河瀬君を発見した。
「ど、どうしたの?なんかあったの?」
息を切らしながら訊ねた。
「いや、さ、さ、さくらちゃん!」
いつもよりぎこちない動きの河瀬君はいつもより大きな声で、いつもは呼ばない名前を…………。
「はい。」
たじろいだあたしは小さな声で返事した。
「す、す、す、す、好きです。よかったら付き合ってください!」

