テーブルの中央に母親の生けた花が飾ってある。
さくらはそれを見つめていた。
俺は何とも言えない感情が身体中を巡る感覚に襲われた。
さくらの表情が胸に刺さったみたいだ。
「でもアニキはどうせすぐ別れるんだろ?」
とか言って何となくフォローしてみたりしながらさくらを見ていた。
笑え
笑え
笑え
無意識のうちに
心の中で念じていた。
俺が何か言ってもさくらの表情は変わらなかった。
俺は話題を変えようとやたらと喋った。
やみくもに、テレビドラマやら、政治やら、音楽や、好きでもないアイドルの話、学校の話をした。
焦っていた。
気づくと母親とアニキが俺をポカーンと目を丸くして見つめていた。
さくらは花を見たり、アニキを見たりときどき力なく微笑んだり頷いたりしていた。
「おまえ、今日はよく喋るなぁ。」
呆気にとられたアニキが言った。
母親は吹き出した。
「3年分くらい喋ったんじゃないのー!」
と言って笑っている。
アニキも笑いだし、
それを見ていたさくらもつられるように笑った!
俺の努力のかいあって、さくらは笑顔を取り戻した。
一安心して俺は部屋に戻った。
て言うか、
俺なんか関係ねーじゃん!
アニキが笑えば笑うんじゃん!
俺の努力のかいあってとか、負け惜しみみたいに言ってみちゃったけど、
わかってるわかってる。
俺なんか関係ないってことくらい。
なんだよ、もう。虚しい。
俺の努力はなんだったんだー!!!
さくらは俺のことなんて全く眼中に入ってないな。
そして俺はそんなさくらにやっぱり惚れている。

