あたしは家に戻ろうと踵をかえした。
百日紅の木の下のベンチに腰をおろした。
花はまだ咲いていない。
3秒くらいで日差しの暑さに負けて立ち上がった。
立ち上がるのと同時に後ろでドアの開く音がした。
「さくら?」
呼ぶ声に恐る恐る振り向いた。
やっぱり、カケル君だった。
「カケル君。久しぶり。」
平静を装い笑顔で挨拶した。カケル君は駆け寄ってきた。
ドアからベンチまで5メートルくらいの距離を走るのがスローモーションに見えた。
「久しぶり。元気そうだな。」
近くで見るカケル君はやっぱりかっこよかった。
カケル君は優しい笑顔。
「じゃあまたね。」
あたしは立ち去ろうとした。
「待てよ!冷たいな。久しぶりにあったのに。
昼食べた?一緒に食べいかない?」
カケル君のなかではあたしは妹で時間が止まったままなのだろう。
あたしの中ではだいぶ変わってしまった。
変わらない態度のカケル君を上目遣いで見つめた。見つめたというか目が離せなかった。
「行かない。
これから友達来るから、またね。」
私はその場を後にした。カケル君は何も言わなかった。
あたしも成長したな。
部屋に入って感じた。
カケル君の誘いを断るなんて。
行けばよかったかなぁ.…。
涙が溢れてきた。
なんだかわからない感情に苦しんだ。どうしたらいいかわからない。
終わりなのに、好きだから苦しい?
そんなに好きなら、終わりにしなくていい。
でもカケル君はあたしを好きにならないし。彼女もいる。
自問自答を繰り返した。
二十歳の誕生日にこんなに泣くなんて夢にも思わなかった。

