この街には――シバリがある。

シバリとは子には知られてはいけない秘密の言葉。

例えば……選ばれた子はあの『御方』のための犠(にえ)とか。

そのためにこの街で生まれ選ばれなかった子は大人になりあの『御方』のために子を産み選ばれるため子を何年か一度に子を産む。


「今年、あの『御方』が目覚めると兆しがあった。
誰の子が選ばれても文句はないな」

数十人いる人の中、白髪交じりのいかにも長老が自分の長く白い髭を撫でながら言うと、誰も意を唱える人はいない。

「何人?
それもわからないんですよね」

「う〜む……2人……1人じゃ」

「1人、ですか……?」

ざわめきが辺りに広まる。
数十人いるなかの1人。
誰が選ばれても文句は言えない。

「今日はもうお開きじゃ」


長老が言うと周りにいた大人が次々に立ち上がり建物から外に出る。

「……。
今年もか……」

空を見上げため息が漏れた。
あの『御方』の目覚める兆しがあった日はどんなに天気が良くても雨が降る。
雷が鳴るときは最低でも10人以上があの『御方』のもとに子が犠として運ばれる。
今年は激しい雨が降るだけで、しかも犠は1人。