青の向こう




ぼやけた視線を前にある運転席に向ける。


ここではマナーも人間関係も何もかもおざなりにされている。

私が挨拶をし忘れても、年上に敬語を使わなくても誰も文句なんか言わない。


何も自分を縛るものなんかないし、ここには母がいない。


そんな所に私はいるんだ。


するとこの場所がとても遠い場所に思えた。

距離にしたらそんなに遠くはないのだろうけれど、ひどく遠い場所に。

それは距離ではなく、深さのようにも思えた。

今でもはっきりと言い表すことは出来ないけれど、そんな変な気分でいた。


そして私はしばらくまたぼうっとしていた、そんな時だった。


「この車内で最も安全なのはどこだかわかる?」

あまりに突然の声だったからてっきり今まで空耳で聞いていた彼女達のどちらかの声だと思ったけれど、それは寝ていたはずの隣から聞こえてきた。


視線を向けると薄い黒の中にこちらを見るカンベさんがいた。


「運転席、助手席、今俺が座っている助手席の後ろ、そして君がいる運転席の後ろ。選択肢は4つ。どれだと思う?」


指を4つ立てながら彼は笑いもせずにこっちにじっと見ている。