青の向こう




「どこ行く?」と聞いたら「どこでもないよ」と彼女が笑った。


そのまま大輝さんの車に乗って今に至るけれど、本当に目的地はないらしい。


さっきから二人に質問されたりする以外は積極的に話しかけたりしなかったから私は一人で物思いに耽っていた。


ほとんど変化がない車窓の景色は田舎ならではだろうか。

都会の鮮やかなネオン街とは違って、閑散とした道路にポツリポツリと蛍のようなオレンジがあるだけだ。


しばらくして流れていた外の景色が急に止まった。

眺めていた窓と反対の扉がガチャリと音がする。


「やっほー、カンベ」

振り返る大輝さんが片手を上げた。


神部?間部?

反射的に相手を見る前に漢字が浮かんだ。

日々の読書の影響だろうか。


「やっほー、じゃないって。伊藤、今日のは急過ぎ」


そこで、目があった。


暗い社内で僅かに差す街灯に照らされた顔。

耳元のピアスごついな、が第一印象だった。

その次に寝癖だかパーマだかわからない揉みくちゃな髪型。


いかにも軽い男、という印象の人だった。