夏の夜が訪れていた。
昼間とは全く異なる風が腕を通る。
心地好い、そして心に染みる風。
通過した後にすうっと滲まずに消えてしまうはかない冷気。
傷口がない場所に消毒液を垂らした後のような、そんな気分にさせる切ない風だ。
「うん。もう色々面倒くさくなっちゃった」
言葉を発しながら渇いた声ってこのことなんだな、と自分で思った。
「どこ行く?」
車の後部座席に乗りながら外をぼうっと眺めていた。
知らない人の匂いがする。
それもほんのりではなく強く。
多分、大輝さんの香水だろう。
あんまり好きじゃないなあ、この匂い。
けどみっちゃんは好きなんだろうな。
好きな人の匂いだもんな。
そんなことを考えていると、助手席に座っているみっちゃんがこちらを向いた。
「これからちょっと人増えるけど、あんま緊張しなくていいからね」



