翌朝、学校に行く時間にいつものように家を出た。


既に出勤した母の代わりに祖母が「行ってらっしゃい」と見送ってくれる。

その後ろを通り過ぎる涼を見たが、あっちは目も合わさず通り過ぎて行った。

いつもの事だ。


「行ってきます」


また祖母を騙すのは心許ない。

それでも罪悪感に苛まれながら私はあそこに向かう。









スカートが風に吹かれて浮き上がるのを、慣れたように手で押さえ付けた。


朝、制服を着ているのに別の場所へと向かっていくこの何とも言えない開放的と小さな悪戯っぽい気持ち。

ああ、学校をサボるのはこれで二回目だな、とその時ふと気が付いた。


同時に、ハンドルを握る太い指と点滅する車のライトを思い出す。

運転する人の顔は暗くてよく見えない。


ボリボリと小さな砕ける音だけが響くのと、音楽プレーヤーのスイッチがナイト用にくっきりと光っている。

ただそれだけの空間だった。


私の愛した場所と時間。

記憶の中に永久に閉じ込まれている記憶の部分だ。


決して戻る事はない。