夢だった。
やっぱり夢だったんだ。

繰り返しそう思った。


まるで夢であった事がおかしいように私は信じられなくいた。

あの不思議で幻想に違いない"あの時間"の方が現実だったとでも言うように。


だってあまりにリアルだった。

風も壁のざらざらもワンピースの色でさえもあまりに現実的だった。


でも、ここは確かに現実だ。

それは確かだった。



蝉が五月蝿い。

でもあっちの方がもっと五月蝿かった気がする。






しばらく神社で頭痛が収まるのを待ちながら夢に浸っているといつの間にか5時を過ぎていた。


さっきは二人で歩いた坂道を一人で上がっていく時にあの時の様子がまざまざと蘇ってきた。

その度にもう会えないだろう彼女を思い出す。


自転車に跨がって坂道を下りていく頃には蜩がカナカナと鳴いていて西から指す赤い光が目に染みる。

いつも変わらない夏の夕方だった。


家に帰ると「勉強、お疲れ様」と祖母が言った。

図書館に行って来ると嘘をついたからだ。


そうしてお風呂に入っている時にようやく膝に貼られた絆創膏に気が付いた。

ライオンがこちらを見て笑っている。