青の向こう




そんな期間限定の最大のイベントはなくなり、今はあの家にずっと泊まっている。


今でも不思議に思う。

小さい頃は大きな庭から虫の声が囁いてきてそれが心地好い眠りを誘ってきたのに、引っ越してからはちっともそれが心地好いと思わない。

同じ虫が鳴いているはずなのに、どこか違うようだ。


だから夏になると眠れなくなる。

三回目の夏は何故か余計に。





玄関に入ってすぐに一カ所だけ剥がれかけた壁が見えた。

裸になった部分にクレヨンで落書きがしてある。


見覚えがなかったけれど、弟の涼が描いたものだろうと想像出来た。

小さい頃から絵を描くのが得意でどこらかしこに描いていたんだったっけ。

そう言えば今も好きなのか聞いていない。

涼はこの夏で16歳になる。

あの子の絵はもうしばらく見ていないな。


私はそっと滑らかな表面に触れた。

筆圧で少しがざがざしてる。