じゃあ理由は?と聞かれると私は酷く悩むだろう。
それは卒業式当日の心境に似て、新しい事が始まる高揚感と何かを失ってしまったような喪失感とが混ざり合ったようだった。
ほかにも理由はあるかもしれないけれど、それが何かを少なくとも今の私は覚えていない。
何にせよ、そんな複雑な心境で居たのは刹那、実際祖母の家に移ってからは割と何も感じなかった。
長年住んでいたのに薄情だなとは自分でも思ったりする。
しかしそれが私なのだ。
人付き合いにしろ、場所や物にしろ、切り替えが早い。
両親の離婚が決定しても涙は一度も流していない。
それが普通なのかはさておいて悲しい事だなとは思った。
「響子、あんたはもう15歳やけどまだ子供なんやから。辛い事があれば泣けばええんや。大丈夫やから、大丈夫やからね」
そう言って私の手を何度も摩るしわしわの手が忘れられない。
泣きそうになっていたのはお祖母ちゃんの方だった。
祖母は祖母で自分の娘や私達を思い、そして少しの憎しみを込めて父を思うのだろう。
あの祖母の家で暮らす少し前だ。
離婚の裁判やらでごたごたしていた頃。
ごめんね。おばあちゃん。
泣けない。悲しくないよ。
ごめんなさい。
それがエンドロールのように頭の中を流れながら私は白い手と麦茶色の手を見ていた。



