両親の離婚が正式に決まったのは高校一年の夏の終わり頃だった。
晩夏の物寂しい冷めた風が吹く夜で、クーラーは付けていないのにやけに涼しかった。
「おばあちゃんの家に引っ越すからね」
と母が言った。
前々から言われていた事だったし覚悟はしていたけれど、まるで唐突に告白されたように胸がざわついた。
祖母の家はこの団地よりももっと市内の中心に近く、私が通う高校にも通いやすい。
そして何より平地だ。
今まで散々坂ばかりで帰るのが辛い、なんて文句を言っていたのにこれからは言う必要がない。
でも待ち望んでいた事なのに嬉しくはなかった。
父がいなかったからか。
団地の皆と離れてしまうからか。
多分違う。
父の事は嫌いだった。
それに団地の皆とはもうすれ違っても挨拶する程度だったし、元々私は頗る冷たいという事を自覚している。
過ぎた他人に興味などなかった。



