青の向こう




家を目前にじっくりと見渡したけれどやはり自転車はなかった。


自転車でここまで来て、私が住んでいた家の隣にある駐輪場に置いた。

駐車場も含めた場所で、車庫がない一軒家や後ろのマンションに住む人達が置く、大きな駐車場。

と、言ってもこの時代とは違って今は車庫を持つ真新しい一軒家が増えて、後ろのマンションの住人の駐車場のみに使われている為、今はだいぶ面積が小さくなっていた。

余った敷地にはまた新築が建っているのが見えた。


あの家もまた私を置いて、変わってしまっていた。

今はもう別の誰かが住んでいるらしい。

あの味がある屋根の色を好いてくれた人がほかに現れたのだろう。


私は自転車を止めながら家の窓辺に知らない猫が寝ているのを見て、少し寂しくなった。


しかし今は見慣れたカーテン、洗濯物、そして窓辺には猫の代わりに飾られた小さな観葉植物がこちらを見ている。

我が家だ。



「ただいまー」


私の感動もそこそこに響ちゃんが鍵を開けて半身を扉の中に入れた。

「狭い家だけど、お姉さんもご遠慮なさらずに」

冗談めいた口調で言いながら彼女はこちらを振り返った。


「お邪魔します」


そう言って自分の住んでいた家に入るのはやっぱり可笑しかった。