「ええと…」
さっきからそれをどうするかずっと考えていたけれど、唐突にその時は来た為、丸きり焦った様子を見せてしまった。
しまった、どうしよう。
「絵里」
咄嗟に出た言葉はもはや無意識に近かった。
しまった、と思う間もなく、彼女の目が暗く沈む。
そして、ふうんと呟いてまた前に向き直ってしまった。
嘘だと気付かれただろうか。
横目でちらちらと確認するがその様子はなさそうだ。
それにしても、ほとんど反射的に絵里ちゃんの名前を使ってしまった。
一番口にする名前だからだろうか。
それにしたって"絵里"はまずかった。
中学こそ違ったが、彼女とは小学校、高校の同級生だ。
この小学校時代だって、みっちゃんと並ぶくらい仲が良かったはず。
けれど正体がバレているような様子はないし、大丈夫だろう。
私は自分に言い聞かす。
そして、でも、と自分の中で付け加えた。
正体がバレて未来に影響が出る事は確かに避けなければいけない。
しかしそれ以前に私は現代に帰れるのだろうか。
それが一番の問題だった。



