青の向こう




「ちっとも素敵じゃない」


今度は下を向いてしまった。

頑固な所は昔からだ。


「お母さんが付けた名前なの。響子って。本当はお父さんが響歌って名前にしようとしてくれてたのに生まれる直前に変わっちゃったんだって。絶対響歌の方が可愛かったのに」


お父さん、の響きで心臓がコトって音を立てた。

一度目を見開いて、それから睫毛が下がった。

空耳だか本当だか分からないけれど、バイクのブウーンって音が聞こえる。

やっぱり空耳だろう。


彼女はそれを知らずに今度は目線を上げて、楽しそうに笑いながら言った。


「だから響ちゃんって呼んでね。周りも皆そう呼んでくれているから」

「うん。分かった」


ぎこちなくはない、きちんとした微笑みである自信はなかったけれど、なんとかその表情を保てたと思う。

六年経ってもまだ、気持ちと反対の表情を浮かべるのは難しい。


また、もう何年か経ったら、今度こそ完璧になっているのだろうか。

それはそれで悲しいような気もした。


「お姉さんは?」

無垢な瞳がくるりとこちらを向いた。