青の向こう




聞く必要はなかったけど体裁を考えて「名前は?」と尋ねる。

すると今度はあからさまに眉間に皺を寄せた。


さっきから敬語はもう使わなくなっていたし、こうやって露骨に態度に出る所なんかはやっぱり子供だなあ、と思った。

大人ぶっていたいけれど、完璧には演じられない。

それがあの頃の私だ。


もう完全に拗ねたような表情で、彼女は口を窄めた。


「関口……響子」


どうやら響子、の部分が気に入らないらしい。

関口はすんなり言えたのに響子がやけに小さかった。


「今時、名前に子が付いてる人なんて珍しいでしょ?恥ずかしい」

だそうだ。


思わず苦笑いが漏れた。

ああ、確かにコンプレックスだったなあ、と思い出す。


この古風な名前は映画やドラマでも時々よく耳にしたけれど、大概が歳の行った役の名前だった。

病院の待合室で待っていても自分と同じ名前で呼ばれるのは大多数がお婆さん。


そうは言っても、名前に子がついている女子なんて当時ではまだ割といた方だったからクラスでからかわれたりはしなかったけれど、自分だけでかなり大きなコンプレックスへと肥大させてしまっていた。


それにしても、自分に自分の名前を嫌われるのは何とも不思議な気分だった。

何というか痒い感じ。


今は割と気に入ってる名前なんだけどなあ。

響きも漢字も、綺麗だなあって。

これも私が響子にする方に強く求めた母に似ているからだろうか。


「素敵じゃない」


カバーはしてみたものの、自分で自分の名前を褒めるのもやっぱり痒い。