「うん。ちょっと坂道でこけちゃって。あなたはこの辺りの子?」
あくまで自然に聞き出そうとする。
ここでいきなり「私は未来の関口響子だ」なんて言ってみようとも思ったけれど、あいにくそんな冗談をかますつもりはなかった。
恐らくここは過去。
神社の前にあった家や、辺りを少し見ても分かる。
ぽつりぽつりと真新しい新築があったのにここにはない。
彼女が現代に来たのではなくて、私が過去に来てしまったのだ。
だから私は恐れていた。
よく漫画や映画である、過去に行って未来を変えるというストーリー。
私が名乗る事によって未来がもし、変わってしまったら。
それが恐かった。
しかし、もう既に危険はあった。
たった何年か後しか時を経ていない私の顔を、「この人は私に似ている」とこの子は気付くんじゃないだろうか。
見た所気付いた様子はないけれど…
「この団地の上の方に住んでいます」
それにしても。
彼女はなかなか礼儀正しかった。
敬語も使い慣れた気はするし、丁寧で当たり障りがない。
そういった面から、やっぱり中学の頃の私なのかな、と思う。



