ボレロ - 第三楽章 -



朝のまどろみを阻む音に舌打ちしたい気分だ。

遮光カーテンに朝日を遮られた部屋で朝の時刻を予想するのは難しいが、6時

にセットしたアラームが鳴った気配はない、ということは4時か5時か……

電話がかかってくるには早すぎる時間帯だ。

誰からの電話だろうかと数人の顔を浮かべ、ほどなく候補は一人に絞られた。

こんな時刻に遠慮なく電話をしてくると考えられる人物の筆頭は、私付きの

秘書である平岡だ。

彼には、用があればいつでも連絡してほしいと常々言っている。

急を要する場合ならなおさら、深夜だろうが明け方だろうがかまわない、一刻

を争う事態には早急の対応が必要となるのだから、遠慮するなとは言った

が……


コール音はすでに数回を過ぎ、私を探すように鳴り続けている。

珠貴の眠りを妨げないために、うるさく鳴り続ける携帯を枕に押し付け音を消

した。

本当に緊急の用であれば、何度でもかかってくるはずだ。

身勝手な解釈だとわかってはいたが、今の私には外部との接触を断ちたい思い

が勝っていた。


珠貴のわだかまりが解け、ようやく二人だけの時間を持つことができた。

温かな肌を感じながらまどろむ心地よさは、なにものにも代え難い。

彼女を腕に抱えながら仕事の話をするほど、無粋なことはないではないか。

それに、電話の相手にこちらの気配を感じ取られるのも嫌なものだ。

緊急を知らせるものだろうが、不幸の知らせだろうが、知らなければ悩むこと

もない。

すべての情報をシャットダウンして、ただこのときを過ごしたいのに……


けれど、非常事態の発生を知らせる連絡なら、ただちに対応しなければなら

ない。

対処の遅れから、のちに深刻な事態に発展しかねないからだ。

コール音は10回を数えていたが、それでも鳴り止まないのだから間違いなく

緊急事態だ。 

迷いを振り切り、枕に押し付けた携帯を持ち上げ発信者を確認した。


”漆原琉二カメラマン”


予想もしない相手からのコールを怪訝に思いながら、静かにベッドから抜け出

し電話に出た。



『なにをしてたんだ、遅いじゃないか!』


『あっ、すみません』



のっけから苦情を言われ思わず謝った。

挨拶もなく怒鳴られ、いつもならカッとくるところだが、彼らしくない言い方

が気になった。



『まったく、いつまで待たせるんだよ。

目覚めが悪いのか、それとも寝不足? 俺の話を聞いたら一発で目が覚めるよ』


『いい話じゃなさそうですね』


『そんなのんきなことを言ってられるのも、今だけだよ。

今日発売の週刊誌二誌に、近衛宗一郎の名前が載っている。

それも写真つきで。一冊は企業の吸収合併を追ったレポ、

もう一冊はいわゆる写真週刊誌』


『俺が載ってるって? 有名になったもんだ』


『アンタの落ち着いた態度はさすがだと褒めたいところだが、

今日ばかりはそうはいかないね。

ファイルを送ったんで、話はそれを見てから』



だんだん彼らしい話し方になってきた。