しかし、岡部真一の気持ちはそれで収まるだろうが、珠貴の心はどうなのか。
彼に突き放された過去の傷はまだ癒えていない。
彼女の傷を含め、すべてを守っていかなければ……
珠貴への強い思いが新たに芽生えた。
「狩野先輩、それより、二人の秘書の疑いはどうなったんですか。僕はまだ彼らを
信じています。今の話を聞いて、思い込みはいけないとは思いましたが……」
「それだが、二人とも怪しい部分がありそうでないとも言える。行き詰ってるんだ。
浅見秘書にも堂本秘書にも、これと言った決め手がないんだ。どうしたものか」
「動機はどちにもありますからね。どちらかが、いつかは動き出すとは思い
ますが……そろそろ、こちらから仕掛けますか」
言い出したのは沢渡さんで、例の写真をだす時が来たのではないかという。
「彼らの直接の動機はわかりませんが、宗一郎さんと珠貴さんの接触を阻もうと
しているのは間違いありません。
二人の交際を匂わせる写真が世間にでれば、次の行動にでるのではないでしょう
か」
「近衛グループと 『SUDO』 のつながりを阻止したいのか、はたまた、近衛と
珠貴さんの仲を邪魔したいのか、理由はどちらかだろう」
「その写真ですが、僕にも見せてもらえませんか」
霧島君の言葉に、そうだ僕らも見たいですねと、櫻井君と平岡も言い出した。
すまない、手元にないと言うと、潤一郎が僕が保存していると言いながら画面を
取り出した。
どうしておまえが持っているのかと聞くと、漆原さんにも会って話をしたんだと、
したり顔で返事があった。
漆原さんが撮った写真の存在を聞き、雑誌に掲載するにはどのタイミングがいい
のか、彼の意見を聞いてきたと言う。
有馬総研を調べ岡部の身辺を調査し、知弘さんや柘植さんに会い、漆原さんにも
会ったとは潤一郎の休暇はまったくなかったといえる。
それでは紫子の不機嫌も半端ではなかっただろう。
画面を覗き込んだ三人の顔は、わあっ……と言ったっきり絶句し、潤一郎に促され
後ろから控えめに見にやってきた羽田さんも、ほぉ……と声にならない声を漏ら
している。
「写真を公表するのは、もう少し先にしませんか。
もう少し追い詰めてから出した方が、より効果が望めると思います。
漆原さんも掲載先を検討中だと言っていましたから、雑誌掲載のタイミングは彼に
任せましょう」
「追い詰めるんですか。潤一郎さんがそう言うからには、なにか策があるので
しょうね」
「たいしたことではありません。彼らにささやくんです」
「秘書の二人に、おまえが怪しいとささやくのか?」
「狩野先輩、それは相手を不安にさせるだけだと思います」
「そうだな、相手を追い込むのはまずいだろう。でも、なにをどうささやくんだ?」
私の言葉に誰もが同じように首をかしげていたが、後方から、あっ、と小さな声が
あがった。
みなの顔が一斉に後方に向き 「わかったんですか?」 と羽田さんに問いかける。
どうぞ、という潤一郎の勧めに、老齢のギャルソンは静かに考えをのべた。



