「写真週刊誌に載ったひとりだよ。柘植コーポレーション社長 柘植真貴子さん。
彼女に関係する人物が有馬総研にいるんですね」
「柘植社長が岡部真一を養子に迎えたってのか、なんのために? うーん……」
テーブルを囲む思案顔を楽しそうに眺めていた潤一郎だったが、ふいに私に目を
向けた。
そう思ったが、弟の視線は私の頭の後ろへ向けられていたもので、テーブルの脇に静かに控えている老齢のギャルソン羽田さんへ声がかけられた。
「羽田さんは、おわかりのようですね」
「はぁ……私の考えが正しいかどうかはわかりませんが……」
「ここの誰もわからないようです。羽田さんの考えを聞かせていただけませんか」
「よろしいのでしょうか」
「えぇ、ぜひ」
潤一郎に促され、それではと羽田さんは控えめに考えを口にした。
「岡部真一とおっしゃる方は、柘植真貴子さんとご結婚なさったのではないで
しょうか」
満足そうに微笑む潤一郎を除く6人が一斉に大声をあげた。
まさか、歳の差はいくつだ? ありえないだろう……などなど、彼らの口から信じられないといった言葉が飛び出している。
「おい、潤一郎、本当に柘植社長と岡部真一は結婚しているのか?」
「そうだ、柘植さん本人に確かめてきた。彼が柘植の籍に入ったそうだ」
「彼らはいくつ違うんだ? 柘植さんは40歳代後半くらいだろう。
男の方は30歳半ばか、もう少し若いかもしれない」
「15歳違いだそうだ」
うわぁ……と、ため息と驚きがまじりあった声が広がった。
興奮状態にある席で潤一郎だけは涼しい顔をしており、ふたたび羽田さんに問い
かける。
「羽田さん、ほかにも気づいたことがあるのではありませんか」
「えぇ、ですが、よろしいのでしょうか」
「もちろんです。遠慮なくどうぞ」
「では……柘植さんと結婚されたことで岡部さんはお名前が変わり、イニシャルは T となりました。
須藤さまへ文書を送られたのは、柘植真一さんではないでしょうか」
あぁ、なるほどそうか……と、今度は感嘆の声がみなからもれた。
続けざまの見事な答えに羽田さんへ尊敬の目が向けられていたが、羽田さん本人
は得意な顔ではなく、私の問いかけに答える顔も、むしろ申し訳なさそうな表情だ。
「それにしても羽田さん、よくわかりましたね。どうしてわかったんですか?」
「どうしてといわれましても……みなさまのお話をお聞きして、おふた方の結婚しか
思いつかなかったのでございます」
「みんな先入観があるから思いつかないんだよ。柘植さんと岡部という男性の年齢
差を考えると、二人の婚姻には結びつかないだろう?
羽田さんは素直に考えた。邪心がない羽田さんだから答えに至ったんだ」
ありがとうございます、と老齢の紳士は丁寧に頭を下げ、あげられた顔には嬉しさが滲んでいた。
「思い込みが推理の邪魔をしたんですね」
「平岡、上手いことを言うじゃないか」
注目してくれと言うように咳払いをした潤一郎が、まだざわつく席を見まわした。
「知弘さんに忠告文を送ったのは、旧姓岡部真一と考えて間違いないでしょう。
岡部真一は 『SUDO』 を脅かす存在ではないことがはっきりしました。
彼は疑わしい人物リストからはずしてもいいでしょう」
みなから 「賛成」 の声が上がる。
『SUDO』 への忠告文は、過去に珠貴を傷つけたことへの償いであり、彼なりの
方法でできることをしたのだろう。



