宗と一時をすごした日から、私は大きく変わった。
何が解決したわけでもなく状況は以前のままであるが、宗を信じようと決めて
から心の揺れは消え、前向きな気持ちが戻ってきた。
「なにかいいことがあったの?」 と母に言われたくらいだから、顔の表情にも
明るさがさしているはず。
選ぶ服も季節と色の調和を考えたものに変わってきた。
今日は宗のお母さまとお会いすることになっていた。
直接お会いしてお話したいと、先日お電話をいただいた。
定時に仕事を切り上げ着替えて車を待った。
宗のお母さまにお会いすることを家族に知られないために、買い物を理由に
運転手の前島さんの送迎を断り、浅見さんに同行を頼んだ。
「浅見さんがいてくださって助かったわ。前島さんは真面目な方だけに融通が
利かないの。どこまでもついてくる勢いなのよ」
「前島さんは熱心な方ですから……あの、私も、奥さまにご挨拶させていただ
いてよろしいでしょうか。お目にかかるのは久しぶりですので」
浅見さんがアメリカ支社に勤務していたとき、視察旅行にいらっしゃった社長
ご夫妻付きの担当になり、視察に同行したそうだ。
約束の場所に私とともに浅見さんが姿を見せると、宗のお母さまは、まぁ……
お久しぶりですこと、と浅見さんの手をとり懐かしそうに声をかけてこられた。
その節はお世話になりました、お変わりはありませんか、いまは須藤さんにい
らっしゃっるそうね、と次々に話しかけ浅見さんも嬉しそうな様子だった。
10分ほど浅見さんを交えて話をしたのち 「珠貴さんと二人だけのお時間をいた
だきますね」 とおっしゃった。
浅見さんへ 「席をはずしてください」 でもなく 「遠慮してください」 でも
ない言葉に、私は深く感心した。
立ち上がった彼女は 「のちほどお迎えにまいります」 とにこやかな笑みと
ともに、その場を立ち去った。
「珠貴さん、大丈夫ですか。私も主人もあなたのことが心配で……
宗一郎は、何も心配はない、彼女は強い人だから大丈夫、なんて申しますの。
でもね、あのような報道を聞いて、心穏やかな人なんていません。
どんなに心細くていらっしゃったかと思うと、わたくし……」
思いのたけを一気に話をされると、あとは言葉につまりうつむいてしまわれた。
私の身を案じて、わざわざ会いに来てくださったのとわかり、胸が熱くなった。
お母さまの手を取り、ご心配をおかけしました、私は大丈夫です、とまずお伝え
した。
「宗一郎さんから、毎日お電話をいただいています」
「まぁ、よかった……あの子ったら、心配はいらないとしか言わないものです
から」
たくさんの方が私たちのために動いてくれていることや、いろんなことがわかって
きており、近く彼から報告がある予定で、解決もそう先ではないでしょうとお話し
すると、ようやく安心した顔を見せてくださった。
「それを聞いて安心しました。宗一郎より珠貴さんにお聞きした方がよろしいわ。
息子なんて頼りになりませんもの、こちらの心配なんてわかろうともしないの。
あぁ、あなたにお会いして本当に良かった、またお話を聞かせてくださいね」
私はすっかりお母さまから頼りにされたようで、それも気分の良いものだった。



