「次は いつ会えるかしら……」
「近いうちに」
「本当?」
「あぁ、君を見つけたら合図を送る」
「この前のように? また柱に隠れるつもりでしょう」
「ふっ、まぁね」
「わかったわ。私もあなたを見つけるわ」
嬉しそうな顔が近づき、私の肩に触れる。
首筋をせりあがった唇が耳にたどり着き、そっとささやいた。
「俺に会ったと、誰にも言ってはいけない」
「わかってるわ……宗……」
名残おしそうに私の頬を包む手に、いっときの安らぎを求め目を閉じた。
もう何度同じ夢を見ただろう。
現実のようにリアルな声と、宗の手が感じられる夢の余韻は、朝の目覚めとしては
悪くない。
彼が夢の中で触れたであろう首筋に手をあて、彼の感触を探すのは私だけに
与えられた楽しみだから。
なぜ、宗はくり返し同じ事を告げるのか。
夢の中の出来事なのに、彼の言葉に何か意味があるのではないかと、私は考え
始めていた。
少し丸めた指先に控えめに手が添えられ、形よく重なっている。
腕を両脇で引き締め、背筋をピンと伸ばして立っている浅見さんの隙のない姿勢を
見ながら、指先の愛らしさが目を惹いた。
女性らしい仕草は、ともすれば近寄りがたい彼女の雰囲気を和らげている。
私の視線に気がついたのか、浅見さんが恥ずかしそうに手を握り締めた。
「手が大きいので、少しでも小さく見せたいのですが……コンプレックスを感じて
います」
「コンプレックスですか」
浅見さんが私の手元を見ながら、お綺麗な指ですねと言う。
自分でも手の形は悪くないと思っているし、むしろ気に入っている。
けれど、手元を気にしている彼女の前で自慢するつもりはなく、褒められた手を
隠すように握り締めた。