ボレロ - 第三楽章 -



軽やかに揺れる肩からは、悩みや苦悩は感じられない。

突き抜けた明るさは、人知れず抱える苦労を隠すためのものだったのか。

それとも、奈緒子先輩が持つ本来の姿なのか。

いずれであっても、彼女が何事に対しても前向きにあることは確かだった。


バルコニーから階下を眺めながら、奈緒子先輩の言葉を思い返した。

夫婦の過去を話してくれたのは、自分たちのようになるな、環境に流されず思うように進めという 、彼女らしい贈る言葉だったのではないかと思う。

土屋さんといい奈緒子先輩といい、なんと遠まわしな言葉を贈ってくれたのだろう。

もっとも、彼らから面と向かって夫婦のあり方を説かれても、反発するばかりだったかもしれないのだが……

などと思いにふけっていると、階下から見上げる多くの顔に見つめられ、わけのわからぬ拍手を向けられることになっていた。

戸惑う私の顔に珠貴がささやいた。



「土屋さんが、みなさまへ私たちのことを紹介してくださったのよ」


「紹介した? 余計なことを言ったんじゃないだろうな」


「この結婚式を企画したふたりです。彼らに拍手をとおっしゃったわ。聞いてなかったの?」


「まったく余計なことを言ってくれる……わざわざ言わなくてもいいだろう」



そんな風に言われては、大勢の前で手柄を披露するようなものではないか。

土屋さんのおせっかいに少々気分を害したが、迷惑そうな顔をするわけにもいかず、笑顔を作って拍手を受けた。

あちらを見てと珠貴に促され、目が示す方向へ顔を向けると、平岡と蒔絵さんが私たちを見ていた。

視線が合うと、二人がそろって頭を下げた。 

思いのこもった礼を向けられ照れくさかったが、頭を上げた二人の顔は嬉しそうだった。 

まだ私たちを見上げている彼らの口が 「ありがとうございます」 と動き大きく手が振られ、私も珠貴とともに手を振り返した。

土屋さんの語りはいよいよ波に乗り、マイクを持つ姿は水を得た魚よろしく嬉々としている。 

打ち合わせでは司会はホールスタッフが務めるはずだったが、いつの間にか土屋さんが取って代わっている。

相変わらずの勝手な独走で、ゲストを飽きさせない司会ぶりに、新郎新婦も顔をほころばせていた。

平岡と蒔絵さんが楽しんでくれるのならそれでいい。

私たちの目的は果たされたのだから……



ふと、風を感じたいと思った。

珠貴の手を引いて賑やかな場を後にした。

「どこに行くの?」 と聞く声に 「空を見にいこう」 と返事をすると彼女は黙ってついてきた。