「彼らに迫る人気が櫻井君でしたが、ふっ、ふふっ……」
「どうしたんですか?」
「入れ替わり立ち代り、女性が彼のそばに来て話しかけるんです。
櫻井君もその子たちの話に応じていたが、曖昧な態度はいけないと思ったんでしょうね。
彼女と約束があるのでと言うと、浜尾さんの手をとってそのまま消えました」
「櫻井君と真琴が消えた? どこに」
「さぁ、それを詮索するのは野暮ってものでしょう」
「真琴」 と聞こえ、宗を横目で睨むと、一瞬しまったといった顔をして 「櫻井君と浜尾君がねぇ……」 と言い直したが、彼も不機嫌な顔だ。
真琴さんに対する兄弟や幼馴染のような感情が、宗の顔を歪ませているとわかっていながら、そんな顔を見せられ 「真琴」 と呼ぶ声を聞くと、私も内心平静ではいられない。
私や宗の複雑な心情に沢渡さんが気づくはずもなく、話はさらに先へと進んでいく。
「女性の一番人気は結歌さんです。
陽気で気さくな女性ですからね、誰にでも話しかけて、気取ったところがなくて、話しているだけで楽しくなってくる。
ことに年下の男に大人気ですよ」
「まぁ、年下の男性に?」
私が予想以上に大きく反応したのが面白くなかったのか、宗が悪い冗談を口にした。
「珠貴も独身だといえば、若い男が寄って来たかも知れないぞ。結婚を早まったな」
「宗、いい加減にして!」
「まぁ、 まぁ、ふたりとも落ち着いて。
なにもこんな日にケンカしなくてもいいでしょう。もっとも、夫婦喧嘩は犬もくわないそうですが」
沢渡さんにこう言われては、不機嫌な顔をしまうしかない。
宗もバツが悪かったのか、口元に手をおき意味もなく咳払いをしている。
「紗妃ちゃんも、別な意味で人気の的ですよ」
「紗妃が?」
「珠貴さんの妹さんですから、お近づきになれば、須藤家と近衛家につながりができますからね
男だけじゃない、同じ年頃の娘がいる人も接触してくる。自分の娘と仲良くさせたいのでしょう。
紗妃ちゃんに、ぜひ遊びにいらっしゃい などと、声をかけて誘っているようですが」
「紗妃ちゃんは、そんなことでなびいたりしないよ。自分をしっかり持った子だ。
自分の相手は自分で見つけるだろう」
「そうみたいですね」
「えっ?」
紗妃に交際している男性でもいるのだろうか。
宗とともに、どういうことですかと沢渡さんに詰め寄ると……
「次々に男性から声をかけられて困った紗妃ちゃんが、どうしたと思いますか?」
「父に助けを求めたとか」
「いいえ、遠堂君にボディガードを頼んだんですよ」
披露宴には大勢のお客さまがいらっしゃるため、勉強の場になるからと、ドアマンの大先輩の宮野さんが、彼を今日のスタッフに推薦したと聞いていた。
披露宴に出席するお客さまの多くは 『榊ホテル東京』 を利用しているため、顧客の情報を把握している堂本君は即戦力となる。
もしトラブルが起こっても、どのように対処したらよいのか、彼の記憶が正確に判断してくれるはずだ。
お客さまをお迎えしたあと、フロアスタッフとして披露宴の様子を見守っていた彼へ、紗妃は自分の警護を頼んだのだった。
「頼まれた遠堂君が、また仕事熱心でして。
紗妃ちゃんのそばで、彼が睨みを利かせながら控えていますから、男だけでなく、娘を持つ親たちも迂闊に声をかけることもできなくて、遠巻きに見ていますよ。
いやぁ、たいしたお嬢さんですね。人の使い方を心得ている」
「あの子ったら……」
「ところが、遠堂君を貶めるようなことをおっしゃるご婦人がいましてね」
「貶める? 嫌味でも言ったのか」
嫌味といえば嫌味ですが……と沢渡さんが顔を曇らせた。



