この提案をもっとも喜んだのは、格式ばった披露宴に渋い顔をしていた宗で、できるなら披露宴は小規模で行いたい、けれど、立場上そうもいかない。
抵抗は無駄だと諦めて、仰々しい披露宴を行うしかないのかと思っていた矢先の提案だった。
さらに、食事のテーブルは、新婦側、新郎側と区別をせず、思い思いにテーブルについていただきましょうということで 「お座席表も必要ありませんので……」 と、これも嬉しい提案だ。
フロアには、招待客の顔と経歴をすべて記憶している、ホテルのスタッフが配置されることになっていた。
彼らに聞けば、誰が誰であるのかわかるが、聞かなければ身分が知れることはない。
それだけでなく、この場で親しくなった方々も、そのときの状況で気軽に同席できるのだから 『アインシュタイン倶楽部』 の計画にも一役買うことになる。
「ご新郎さま、ご新婦さまも、ゆっくりお食事を召し上がっていただきます」 と言われ、これには宗も私も喜んだ。
宗と並んでお客さまのあいだを進んでいく。
行く先々で声をかけられ、お祝いの言葉をいただいた。
フロアの奥に三宅会長のお顔を見つけた宗は、人の波をかきわけながら急ぎ足でそちらへ向かった。
「私が出席してもいいのだろうか」 と出席をためらっていた方のお顔が見えて、宗も嬉しそうだ。
三宅会長のお孫さんは、幼い頃より宗の婚約者だったが、わけあって婚約は解消となった。
婚約解消に至った原因は三宅家側にあったが、すべてを無言のまま受け入れた宗を、三宅会長は気にかけてくださっていると聞いていた。
会長の前へ出ると 「妻の珠貴です」 と私を紹介した。
うんうんと何度もうなずき、もう思い残すことはない、などとおっしゃって宗を困らせたが、どちらの目も赤くなっている。
赤い目の顔を伏せながら、その場を立ち去った。
「珠貴ちゃん、おめでとう」
そう声をかけてくださったのは、父の古い友人である 『昭和織機』 の丸田新社長だった。
丸田のおじさまは、私のために父を説得してくださっただけでなく、仕事の上でも大変お世話になった。
柘植真貴子さんのお顔が見えたため、そちらへ歩み寄った。
小宮山雅さんもご一緒だった。
「あのときは、みんな宗一郎さんの恋人にされちゃいましたね」
真貴子さんが、写真週刊誌の騒動を持ち出した。
いまだからこそ笑えるが、私を含め3人はマスコミに追われ大変な思いをした。
彼女も私も、岡部真一のことは口にしない。
私の過去に関わった彼のことは、私たちの会話にのぼることはないだろう。
一方、雅さんは、あの事件が引き金になり、
「実は、婚約を解消しました」
と打ち明けられた。
私が顔をしかめると……
「珠貴さん、そんな顔をなさらないでください。私、これで良かったと思ってます。
マスコミの作り話を気にするような男性は、こちらから願い下げですから」
さばさばとした表情だった。
「とても楽しい企画があるそうですね。私も参加して、パートナーを見つけなくちゃ」
雅さんも、そっと耳打ちしてくださった。
彼女が真のパートナーに出会えますようにと、心から祈った。



