ボレロ - 第三楽章 -



家のことはひとまず保留だなといい、話題を代えた。



「ところでどうなってる、若者の確保は」


「まずまずかな。招待者にも独身男性は多いですからね、上手くいきそうですよ」


「祐介さん、何を始めるの?」



狩野と櫻井のやり取りに、真っ先に興味を示したのは浜尾君だ。

自分の知らないことが進んでいると察知したようだ。



「彼女たちに話してもいいですね」


「そうだな、実は……」



客船のイメージアップのため、我々の披露宴に参加した男女を結び付けようというのが 『アインシュタイン倶楽部』 の計画だった。

船の出会いでカップルが誕生すれば話題にもなる、イメージアップにつなげようというものだ。

披露宴の招待客だけでなく、手伝いにやってくる社員にも声をかけ、気になる異性がいたら教えて欲しいと伝えることになっている。

友人たちがその話題で盛り上がっている横で、私と珠貴は、先ほどの家の問題をまた持ち出し話し合っていた。


 
「家の管理は三谷さんに引き続きお願いしたいけれど、いかがかしら」


「話をしてみよう。だが、ひろさんだけでは手が足りないだろう」


「そうね、そのほかは……早急に考えなきゃいけないわね」


「新居を探すか、大叔母さまの家に移るのか、いずれにしても人手がいる。お袋に相談してみるか」



頭を突き合わせて話し込んでいる、 羽田さんがドリンクを運んできた。

話を聞いていたのだろう、遠慮がちに 「厨房の人間でしたら、私にも少々伝手がありますが」 と言い 「どうぞご無理をなさいませんように、当日、楽しみに伺います」 とそっと言葉を添えて下がって行った。

羽田さんにも披露宴の招待状を渡していた。 

出会った当初から私たちを見守ってくださった羽田さんには、本当にお世話になった。

お世話になった方々を披露宴へお招きすることも、人生の出発において大事なことだ思うこの頃だった。





明け方近くまで続いたパーティーがお開きになり、私たちはそのまま 『榊ホテル東京』 の私の部屋に宿泊した。

先に寝入ってしまった珠貴の呼吸を聞きながら、マンションを購入するか家を建てるのか、はたまた大叔母の屋敷を譲ってもらうかを考えはじめた。

先々どちらがいいのだろうかと、あれこれ比べるが、一長一短があり迷うばかりだ。

寝返りをうち、こちらを向いた珠貴の顔を見ながら、明け方の自問自答は尽きることがなく続いていたが、いつしか眠りにおちていた。

披露宴の日は、もうそこまできていた。







夏の朝は清々しい。

見事に晴れ上がった空には遮るものはなく、太陽が輝いていた。

爽やかに目覚めた珠貴が、



「波は静かね、揺れは感じないわ」



爽やかな顔で、快適な船室に満足している。

私たちは披露宴当日の朝を 『客船 久遠』 の一室で迎えていた。