ボレロ - 第三楽章 -



「大事なお客さまは、みずからおもてなしするものだと、母に言われているの。 

近衛のお義母さまも、多くの方をご自宅にお招きしていらっしゃったでしょう」


「そういえば、そうだな……」



一時期は頻繁にホームパーティーが行われていた。

昔ほどではないが、いまも我が家に招く客は少なくない。

ホストは家の主人である親父がつとめていた……

ということは、私がこれからその役をこなさなければならないのか。

話題を提供するのも主人の役目で、父も母もにこやかに振舞っているが、座ってくつろぐことはなかったと、今ごろ思い出していた。 

両親の行いを見て育ったはずなのに、現実としてわが身に置き換えたとき、その大変さにいまさら気がついた。

その点、珠貴はしっかり心得ていたようだ。

新しいお部屋のリビングは、どれほどの広さがあるの? と具体的に聞いてくる。

送られてきた情報がこれだ……と、モバイル画面を表示させ、狩野と佐保さんにも見てもらいたいというと、ふたりは喜んで顔を寄せてきた。



「おっ、これは広いな。ダンスパーティーも開けるんじゃないか?」


「こちらは最上階ね。プライベートバルコニーがありますね。屋外でも楽しめるわ」
 

「こっちの物件はもっと広いぞ、走り回れそうだ」


「ただ広ければいいものではないのよ。

必要な時だけ開放する間取りの方が、使い勝手がいいはずよ」


「そうかぁ? 壁を移動するなんて面倒だろう」


「光熱費を考えてみて。間仕切りがあったほうが効率がいいでしょう」


「なるほどなぁ」
  


狩野と佐保さんのやりとりが続く。

家主になる我々より、狩野たちのほうが熱心だ。 

すでに結婚生活の経験がある彼らだからこそ、気がつくポイントがあるのだろう。

何を基準に決めて良いのか漠然としていたが、ふたりの話を聞きながら要点が見えてきた。

黙って聞いている珠貴も、私と同じく決めかねているのだろうと思っていたら、

 

「キッチンも二箇所は必要ね。

できれば、玄関もお客さま様とプライベートに分けられたらいいけれど」 



と話に参加してきた。



「キッチンがふたつあればスムーズでしょうね。

ゲストルームも数部屋は必要じゃありません?」


「そうですね。それから、欲を言えば和室もあれば」


「わぁ、和室は欲しいわね。釜が切ってあれば申し分ないけれど……

あっ、おふたりのお家なのに」


「私もそう思います。

お茶を差し上げるお席にもなりますし、お床があれば掛け軸もかけられますもの」


「ホント、それにね……」



いつのまにか、珠貴と佐保さんが頭をつき合わせて話し込んでいる。

家を決めるのは男だと思っていたが、実際に家で動くのは女性なのだから、女性の意見なくしては決められないのだとよくわかった。



「いっそのこと一戸建てにしたらどうだ。

広いリビングと複数のゲストルームと、キッチンは二箇所だな。

それに広いバルコニーが必要なんだろう? 庭付きの家を建てたほうがいいと思うけどね」



狩野の発言に、私も珠貴も、そして佐保さんも、思わず顔を見合わせた。