披露宴も進み、方々で人々の輪ができていた。
友人の輪もあれば、いかにも仕事に絡んだ顔で膝を突き合わせている人々もいる。
相変わらず私たちは挨拶に追われていたが、ひととき席に戻って落ち着いた。
見計らったように運ばれてきた冷たいドリンクが、渇いたのどを潤してくれる。
「忙しそうだな」
「やっと一息つきました。今日はコメツキバッタさながら、頭を下げっぱなしですよ」
「そうだろう。だが、二人そろって挨拶してるところは、なかなかさまになってるぞ。
宗一郎、良かったな」
声をかけてくださったのは、お義母さまのご実家の弟の久我路信さん。
宗の叔父さまで、みなさんが 「久我のおじさま」 と呼んでいる方だ。
「宗一郎も式場を探してるんだってね。広いホールを確保するのは難しいだろう」
「榊ホテルも、二年先まで予約でいっぱいだそうです」
「だろうな。なら、こういうのはどうだ」
久我のおじさまは、なんでもないと言った顔で私たちに披露宴のプランを提案してきた。
「中規模クラスの広さなら空きがあるはずだ。披露宴を4・5回すればいい。
足りなければ、何度でも繰り返せばいいだろう」
「簡単に言わないでくださいよ。そんな時間がどこにあるんですか」
「時間は自分で作るんだよ。じゃぁ、こんなのはどうだ、会社のクラブハウスがあるだろう。
あそこなら大容量だ、千人でも収容できる。いい考えだろう?」
「うちのクラブハウスは体育館ですよ。だいたい料理をどこから運ぶんです。
あんなところでできますか」
「バカを言っちゃいけない。一企業が所有するクラブハウスで、もっとも大きな施設だ。
作ったのはおまえの祖父さんだぞ。じいさんの偉業を、あんなところとはなんだ。
内装なんてのはどうにでもなる。料理はケータリングだ。
狩野君に頼んで、ホテルから出張してもらえ」
久我のおじさまのお話は本当に楽しい。
頭に浮かんだことを言葉にして並べているのか、次から次へと言葉が繰り出されるのだが、発想が柔軟で思いつくことが普通ではない。
討論では誰にも負けない宗も、久我のおじさまにはかなわないのか、圧倒されているではないか。
宗を負かすのは結歌だけではなかったようだ。
宗の困った顔が珍しく、悪いと思いながら、ふたりの掛け合いを楽しませてもらった。
「おっと、珠貴さんを忘れちゃいけない。クラブハウスじゃ花嫁がかわいそうだ。
ここと違ってシャンデリアなんてものはない、無機質な天井だからなぁ。
雰囲気もへったくれもないか」
「そうですよ……」
「じゃぁ、こういうのはどうだ?」
「叔父さん、もういいですよ」
「まぁ待て、久我が買い入れた客船があるんだ。手入れはこれからだが」
「買い入れたってことは、中古ですか」
「中古というか、新品というか、車で言えば新古車だな。
少々難アリだが、隠せばわからんだろう」
「事故車を隠してどうするんです!」
「車じゃない、客船だ。豪華客船だ、数百人は収容できるぞ」
「路信さん、そのお話、あとで詳しく聞かせてちょうだい」
突然話に入ってきたのはお義母さまで、ひとこと伝えると身を翻し、その場を立ち去った。
「塔子姉さんの目、本気だったな」
これは面白くなりそうだと言葉を続けた久我のおじさまは、楽しそうな顔で宗と私を見た。



