「何を考えてるのかな」
「うぅん、なんでもないわ」
「ふぅん、その顔は俺に秘密があるときの顔だと思ったが……」
「その顔って、どんな顔?」
「眉間にしわを寄せて、唇をギュッと結んだ顔だよ。絶対何か隠してるな」
「そんなことありません」
「否定するところが怪しいね」
「仲がいいね。ふたりは、いつもそんなケンカをしてるの?」
潤一郎さんが、流れるようなしぐさでフォーク動かしながら、顔を上げずに私たちをからかう。
「ケンカじゃない」
「ケンカじゃありません」
同時に声をあげた私と宗へ 「声までそろってるのね。仲がいいってそういうことです」 と、紫子さんにまで言われてしまった。
結婚においては先輩である潤一郎さんと紫子さんに、私たちがかなうことはないのかもしれない。
お色直しのあと、バンケットホールの様相は一変した。
外に面したカーテンが一斉に開けられ、庭園を望む開放的な空間へと変わった。
それにあわせ、新郎新婦の衣装も大きく変化していた。
知弘さんのタキシードは流行のラインを取り入れた細身のタイプで、引き締まった知弘さんに良く似合っている。
静夏ちゃんは、ドレスラインのカットの美しさが際立つウエディングドレスを見事に着こなしている。
いっとき庭の景色に目を奪われた出席者も、華やかな静夏ちゃんのドレスに注目し 「素晴らしいわ」 の声が方々から聞こえてきた。
二人の姿にため息ながらに感動していると、潤一郎さんと宗から思わぬ言葉が聞こえてきた。
「知弘さん、静夏を着飾らせて楽しんでいるね」
「理由はなんだっていいんだよ、建前があれば」
「えっ? 理由って……」
私も静夏ちゃんも、知弘さんから披露宴でドレスを着る意味を諭され、それならばと贅をこらした衣装を仕立てたのに、理由とは、建前とは、いったいどういうことだろう。
「みなさんに見ていただく……と、これは建前だな。静夏を着飾らせる理由付けになる」
「披露宴のドレスはビジネスチャンスだって、そう私に言ったわよね」
「そうでも言わなきゃ、静夏も君も着ないだろう」
「君もって……私がドレスを着ることで、みなさまの目にとまるのならと思ったのよ。
経営戦略は、理由付けだったの?」
「半分は本当」
「残りの半分は?」
「残りは……男のプライドや願望かな。
宗も知弘さんも素直じゃないから、理由が必要だった……ということだろう?」
宗の返事を引き継いだのは潤一郎さんだった。
二人で顔を見合わせて、意味深な笑みを浮かべている。
これまで、と潤一郎さんが似ていると感じたことはなかった。
双子とは言っても二卵性双生児の二人は、顔も性格も異なり、年齢差のない兄弟ととらえていたけれど、いま目の前で見せた顔はそっくり同じで、言葉を引き継ぐタイミングなど、互いの心が読めるのではないかと思ったほどだ。
それにしても、宗がそんなことを考えていたなんて驚きだった。
エスコートする知弘さんの目は、常に静夏ちゃんに注がれている。
言われてみれば、仕事が理由だけではないだろうが……
「それだけじゃないでしょう? 私たちに気兼ねさせないため……そうよね?」
ふっと笑って、それには答えてくれなかった。
何枚ものドレスを作り、もったいないと言い出しそうな私へ 「仕立てるための意味」 を語ったのは、私のためにほかならない。
そして、もうひとつ意味があるとしたら……
「あなたも私のドレスを楽しみにしているの?」 と聞くと、またも返事はなかったが、宗の口角が少しだけ持ち上がった。
私のウェディングドレスは、すでに仮縫いに入っている。
宗も楽しみにしてくれているのなら、それはそれで嬉しい……
そう思いながら、身に纏う日を楽しみにしている自分もいた。



