翌朝、気を取り直して 「おはよう」 と言えただけでもたいした進歩だと思う。
物分りのいい妻になるのは、まだまだ時間がかかりそう。
「三谷さんに相談したいことがあるの。今日はいらっしゃる?」
「相談があるなら連絡しようか?」
昨夜、私の不機嫌を感じ取ったのか、今朝の宗は妙に優しい。
私の機嫌を伺っているのだろう。
気を遣ってもらえるのもいいものだ。
いつまでも拗ねていては大人気ないと思い 「お願いね」 と少し可愛く言ってみた。
「わかった。連絡しておく」 と即答した宗の顔は、どことなくほっとしていた。
三谷さんの仕事は家の管理全般にわたり、宗の身の回りだけでなく、家のすべてが三谷さんによって整えられている。
宗のような立場の人にとって衣服の管理は重要で、背広もクリーニングばかりではない。
スーツによっては専用のブラシで生地をならし、細かな部分の手入れは人の手で行わなければならない。
靴、ネクタイ、カフリンクスなど、個々に使用後の手入れが必要であり、それらを三谷さんは心得ている。
衣装の管理など教えていただくことも多い。
今日は午後から、片付けの手伝いをお願いした。
「京極の大奥さまには、大変お世話になりました。
若い頃覚えたことが、こうしてお役に立つのは嬉しいですね」
「京極の大奥さまとは紫子さんのおばあさまですね。
とてもお洒落な方でいらしたそうですね」
「それはもう……衣装のお部屋の管理も大奥さまに教えいただきました」
「私にも教えていただけますか」
「私でお役に立つのでしたら。それで、どういったことを?」
「ドレスが増えそうなんです。それもかなりの数になりそうなの。
お着物も少しずつ持ち込んでと思っていますけど、この広さでは無理がありますでしょう」
「さようでございますね……」
宗のマンションの部屋の一室が私の自室になったが、衣装の収納に苦慮していた。
部屋に備わっているウォークインクローゼットは決して小さくないが、服だけでいっぱいになりそうな気配だ。
三谷さんは私の話を聞き、運び込んだ荷物の数々と、すでにクローゼットにしまわれた衣服を
しばらくながめていたが、新居に移る予定もあると聞くと、
「こちらのお部屋すべてを、クローゼットになさってはいかがでしょう」
と、大胆なプランを示した。
部屋そのものを衣裳部屋にしてしまうというもので、聞いたときは驚いたが、管理のしやすさだけでなく、機能性も考えられたプランに感心した。
「これでしたらリフォームの必要もございません。
通気性も良く、お衣装のためにもよろしいのではないでしょうか」
「そうですね。詰め込んでしまっては取り出すのも大変。
なにがどこにあるのかわからなくなりそう」
「収納を把握していけば、必要なお品がすぐに取り出せます。
目に見えるように収納することだと私は教わりました」
「目に見えるようにですか……衣装に限らず大事なことかもしれませんね。
アクセサリーやバッグ、靴も増えるでしょう。三谷さん、お手伝いいただけますか」
おまかせくださいと心強い声があり、この部屋の管理もお願いした。
「こちらのドレスが式のお衣装ですね。なんて綺麗なお色でしょう」
「二人の結婚式には 『SUDO』 が扱う生地で仕立てたドレスを着るようにと、社命だったんですよ」
「社命ですか?」
「えぇ、特に静夏ちゃんのウェディングドレスには、社運がかかってるんですって。
これもビジネス戦略だよ、なんて叔父は言ってましたけど、お洒落ができるんですもの、女性には嬉しいですね」
「ワクワクするお話ですね」
三谷さんが楽しそうにおっしゃって、私のイブニングドレスを眩しそうに眺めた。
知弘さんと静夏ちゃんの結婚式は今週末に迫っていた。



