ボレロ - 第三楽章 -



「7人で集まったの、何年ぶり?」


「私の結婚式にみんな来てくれたでしょう。それ以来じゃないかしら、5年前よ」


「じゃぁなに? この5年間、誰も結婚しなかったの? 彼氏とかいないの? 

ダメじゃない」


「ダメじゃないって、結歌だってまだでしょう。人のこと言える?」



でも結婚指輪だけは決まってるのよね、と友人のひとりに言われ 「いいじゃない」 と開き直る結歌をみんながからかう。

高校時代から快活な彼女たちだが、今日はひときわ賑やかだった。

卒業後、会う機会も少なくなっていたが、今夜は私のために集まってくれた。


多感な時期を一緒に過ごした友人たちに再会すると、会えなかった時間などなかったように、瞬時に昔に戻っていく。

同じような家庭環境の生徒が集まり、どちらかと言えば保守的な子が多い中、私たちのグループには、積極性があり自己をしっかり持った子が集まっていた。

母校は伝統的な女子校で、昔は卒業とともに結婚する生徒がほとんどだった。

昔ほどではないが、今も卒業生の結婚は早い。 

7人のうち2人は大学卒業後ほどなく結婚し、もう一人も5年前に結婚している。



「珠貴は、お父さまの跡を継ぐんだとばかり思っていたのよ」


「いまでもそのつもりよ」


「近衛さんと結婚したのに?」


「えぇ、彼がそうするように勧めてくれたの。全力で支えるから、やればいいって」


「すごいじゃない。近衛さんもいずれは会社のトップになる方なのに、珠貴のサポートもするなんて、誰にでもできることじゃないわ」



さすが近衛さんねと、宗を褒められ悪い気はしない。

出会いは? とお決まりの質問にはじまり、交際期間からこれまでを話すことになった。

みな私が須藤の家を継ぐ立場と知っていたため、近衛姓になったことが一番の関心時で、父が理解してくれたのだと話すと、良かったわね……と涙を滲ませる友人もいた。  



「私にも、珠貴みたいな出会いがないかなぁ」


「あなたのところは男性が多い職場じゃない、贅沢よ」



そう言ったのは百貨店のバイヤーをしている友人で、出張ばかりで出会いが少ないと嘆いている。



「いるにはいるのよ。でもねキャリアを目指して入庁したから、男性は競う対象になっちゃったのよね。

ねぇ、誰か紹介して」


「私に言わないでよ。学生が相手の仕事なのよ、年下過ぎるでしょう」



結歌は、帰国後舞台活動のかたわら、母校である音大の講師も勤めている。

若い子でもいいからと、半ば本気で結歌に頼み込んでいた彼女が、ふと思い立ったように、 



「近衛さんの会社って優秀な方が多いはず。ねぇ 紹介してもらいましょうよ」 



と言い出した。

そこへ宗が遅れてやってきたものだから一段と賑やかになり、彼は挨拶もそこそこに、結歌たちにつかまった。



「すごい歓迎振りだね」


「宗さん、ここに座って。でね、宗さんの会社の社員の方を紹介して欲しいの」



いつもながらの結歌の独走に宗は面食らっているが、そんな彼の様子などお構いなしに 「私たちにステキな男性を紹介してください。お願い」 とすがっている。

どういうこと? と私に説明を求めた彼へこれまでの話をすると……



「わかりました。ウチの優秀な社員を紹介しましょう」 



男性の紹介を請合ったのだった。

結歌を含めた3人が大喜びしたのは言うまでもない。


それからの宗は、彼女たちに囲まれ質問攻めで 「困ったな」 と言いながらまったく困った様子はなく、むしろ積極的に話しかけている。 

最初は 「近衛さん」 だったが 結歌と同じように 「宗さん」 と呼ばれるようになり 宗の頬は、ますます緩んでいた。

内心私が面白くないと思っているとは思いもしないだろう。


私の不満そうな顔に気がついたのは結婚している3人だった。



「珠貴、あなたの気持もわからなくもないのよ。

でもね、妻の友人を大事にしてくれるダンナさま、ステキじゃない。喜ぶべきよ」 



結婚の先輩は余裕の発言だ。

そう言われても心のモヤモヤは消えず、結歌たちに囲まれ嬉しそうな宗が気になったが、会話に興じているうちに気持ちもそれた。

友人たちと過ごす時間は、瞬く間に過ぎていった。



帰宅後 「今夜は楽しかったね」 とのんきに言われ、そんな宗の顔を見ていたら無性に腹が立ってきた。
 
物分りのいい妻を演じようと思っていたが、抑えていた気持ちがむくむくと蘇り、彼の顔を両手ではさむと……パチンと叩いていた。

どうしたんだ? と聞かれたがそれには答えず、シャワーを浴びて寝室へ向かった。

その夜、彼に背を向けて寝たのは私の意地だ。