「ほら、そうやって指輪を眺める目、宗さんを思ってるでしょう。あーぁ、羨ましい。
でも、真珠を選んでくださったなんて嬉しいわね。
珠貴の石ですものね、そのブローチもプレゼント?」
結歌が指差したのは 襟に飾ったアンティークの真珠のブローチだった
「宗からのプレゼントよ。
アメリカに出張したとき、アンティークのオークションで手に入れたんですって……
結歌、どうしたの?」
話を聞いていたが、途中から顔色が変わり、視線は私の肩向こうを見ている。
険しい目に変わった結歌の視線をたどるように、ゆっくり後ろを振り向いた。
「久しぶり。結歌さん、そんなに睨まないでよ……珠貴、結婚おめでとう」
「真一さん、よくも私たちに声をかけられますね」
結歌の棘のある言葉に、岡部真一が肩をすくめた。
私が彼と交際していた頃を誰よりも良く知っている結歌は、彼との恋愛が破綻したと知ると、
私より怒りをあらわにした。
いまでも真一さんに良い感情を持っていない。
「ひとことお祝いを言いたくて……」
「真一さんにお祝いを言われるなんて、珠貴も迷惑です」
「結歌、いいのよ」
「だって」
怒る結歌を抑え、真一さんの前に立った。
あらためて 「結婚おめでとう」 と祝いがあり 「ありがとうございます」 と返した直後
「そのブローチ」 と彼がつぶやいた。
真一さんが目に留めたのは、襟の真珠のブローチだった。
どうして君が持っているのかと唐突に聞かれ、宗からもらったものだと伝えると、目を見開いて驚いた。
「オークションで僕と競ったのは、近衛さんだったのか……」
「オークションって、アンティークの?」
一昨年前、私が誘拐された事件に絡み、イタリア国内の流通に影響力のある人物に接触するため、宗はアンティークオークション会場に赴いた。
そこで手に入れたアンティークの一品で、珠貴の名に重なる真珠だから欲しかったのだと言いながら、このブローチをプレゼントしてくれたのだった。
競った相手が日本人だと聞いていた
「彼が最後まで競った日本人は、あなただったの?」
「そうみたいだ……仕事で行ったオークションだった。
真珠の出品があると知り参加した。真珠と聞くと君の名前を思い出す。
手放したのは僕なのに、手元に置いておきたいと思ったが……」
「真一さん」
「最後まで粘ったが手に入れられなかった。それがいま、君の手元にあるとはね。
運命のいたずらってのはあるんだな……僕も、あのオークションで気持ちの区切りがついた」
奥さまの柘植真貴子さんと出会ったのは、オークション会場からの帰りだったそうだ。
「去年のマスコミ事件で、有馬総研の内部事情を知らせてくれたのは、真一さんだったそうね」
「いまさらと思うだろうが、須藤の名を聞いて黙っていられなかった。
そういえば、僕が持っているペーパーウェイトの限定品は、近衛さんから譲ってもらったものらしいね。
彼とは因縁があるのかな」
「因縁だなんて、偶然よ……あなたはペーパーウェイトのコレクターだったわね」
「覚えてくれてたんだ」
「……真貴子さんにもお世話になりました。よろしくお伝えくださいね」
「うん、伝えるよ」
まだ睨みつける結歌へ 「邪魔したね」 と声をかけ、私に軽く手を上げながら去って行った。
遠ざかる背中に、愛しさも懐かしさも感じることはなかった。



