結婚後の諸手続きが一段落すると、次の忙しさが待っていた。
忙しいと言ってもこちらは嬉しい忙しさで、友人たちが次々と 「結婚を祝う会」 を設けてくれるのだった。
私と宗、それぞれの友人たちが企画してくれる会ではあるが、二人一緒に招かれるため、どちらの会にも顔を出すことになる。
予定が重ならないよう日にちを設定してくれるものの、私たちは連日の出席という、嬉しい悲鳴をあげることになっていた。
今夜は宗の大学時代のお友達のみなさんが 「結婚を祝う会」 を開いてくださることになっている。
お仲間のみなさんの結婚が決まると 「祝う会」 が企画され、それぞれパートナーを伴って出席する。
狩野さんや平岡さんも今夜のメンバーで、佐保さんと蒔絵さんも一緒だ。
私も以前参加したことがあり、そのとき蒔絵さんと出会い、ジュエリーに興味を持ち 「宝飾部門」 を立ち上げるきっかけになった思い出の会だった。
このような会は、本来は結婚式以前に設けられるもので、婚約から結婚式の間に行われるのだが……
あなたたちの急な入籍で、友人たちも急ぎ企画することになったと、まるで迷惑だと言わんばかりに私を責めるのは、長年の友人である波多野結歌だ。
彼女を中心に高校時代の友人たちが企画してくれる 「お祝いの会」 の案内を知らせてくれたのに、結歌は優雅にカップを持ちながら、眉間にシワを寄せまくし立てている。
「それもこれも、珠貴、あなたのせいよ。わかってる? 婚約は確かに形式だけよ。
でもね、あなたや宗さんのような立場の人に婚約は必要なんです」
「いまさら言われても……まさか、こんなに大変だなんて思わなかったのよ。
結歌も経験してみたらわかるわよ」
「経験しようにも私には無理です。どこに宗さんみたいな男性がいるっていうのよ。
珠貴は特別なオウチに嫁いだの、わかってるわね?」
「わかってはいたけど、いざ結婚したらなんだか思っていたよりずっと、その……」
「ずっと大変なのはわかるわよ。だから私たちの会にも出席してね。いい?」
言っていることはめちゃくちゃだが、結歌に反論する勇気はない。
彼女にかかると理論派の宗もたじたじになるのだから、かなう相手などいないはずだ。
学生時代からこの調子で、周りのみんなを引っ張ってきた。
面倒見が良くて情に厚い、いわゆる姉御肌で涙もろい。
傷心のままイタリアに渡った当時、心身ともに疲れ果てていたが、結歌がいたから辛さを乗り越えられた。
彼女のおかげで、今の私を取り戻すことができたと言っても過言ではない。
「結婚指輪、ありがとう。入籍までに間に合ったのは結歌のおかげよ」
「急にあらたまってなによ……私は宗さんに頼まれたから、その、ちょっと協力しただけよ」
私が婚約指輪には興味がないと知った宗は、先に結婚指輪を準備するため、結歌と蒔絵さんに
協力を依頼したのだった。
二人は私の前でデザインブックを広げ、結歌は自分の結婚指輪を決めておくのだと言いながら、さりげなく私の好みを聞き出し、そして出来上がった指輪は、いま私の指にはめられている。
「うぅん、二人には感謝してるわ」
「感謝なんて、照れるじゃない」
先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、結歌は長い手足を小さくして恐縮している。
頼まれれば親身になって走り回り、損得など考えず懸命になる姿は、彼女の愛すべきところだ。
「そっ、そういえば、宗さんのおかあさまから、真珠の指輪をいただいたそうね」
「誕生日のプレゼントにいただいたの。指輪にこだわりはないなんて言ったけど、贈っていただくと嬉しいわ」
「それって、宗さんが贈るはずだった、婚約指輪の代わりでしょう?
婚約指輪ですよ、なんておっしゃらないところなんて、すが宗さんのおかあさまね」
「うん……」
「あら、ちゃんとわかってたみたいね」
「わかってるわよ、いじめないでよ」
「ふっ、だって、珠貴の幸せそう顔を見たら、意地悪を言いたくなっちゃうの」
結歌が、またわからないことを言い出した。
友人に詰め寄られて、私は困った顔をしているはずなのに……
宗が言ってたわね、結歌さんの言葉は黙って聞くこと、と。



