ボレロ - 第三楽章 -



結婚後の諸手続きが一段落すると、次の忙しさが待っていた。

忙しいと言ってもこちらは嬉しい忙しさで、友人たちが次々と 「結婚を祝う会」 を設けてくれるのだった。

私と宗、それぞれの友人たちが企画してくれる会ではあるが、二人一緒に招かれるため、どちらの会にも顔を出すことになる。

予定が重ならないよう日にちを設定してくれるものの、私たちは連日の出席という、嬉しい悲鳴をあげることになっていた。


今夜は宗の大学時代のお友達のみなさんが 「結婚を祝う会」 を開いてくださることになっている。

お仲間のみなさんの結婚が決まると 「祝う会」 が企画され、それぞれパートナーを伴って出席する。 

狩野さんや平岡さんも今夜のメンバーで、佐保さんと蒔絵さんも一緒だ。 

私も以前参加したことがあり、そのとき蒔絵さんと出会い、ジュエリーに興味を持ち 「宝飾部門」 を立ち上げるきっかけになった思い出の会だった。


このような会は、本来は結婚式以前に設けられるもので、婚約から結婚式の間に行われるのだが……

あなたたちの急な入籍で、友人たちも急ぎ企画することになったと、まるで迷惑だと言わんばかりに私を責めるのは、長年の友人である波多野結歌だ。 

彼女を中心に高校時代の友人たちが企画してくれる 「お祝いの会」 の案内を知らせてくれたのに、結歌は優雅にカップを持ちながら、眉間にシワを寄せまくし立てている。



「それもこれも、珠貴、あなたのせいよ。わかってる? 婚約は確かに形式だけよ。 

でもね、あなたや宗さんのような立場の人に婚約は必要なんです」


「いまさら言われても……まさか、こんなに大変だなんて思わなかったのよ。 

結歌も経験してみたらわかるわよ」


「経験しようにも私には無理です。どこに宗さんみたいな男性がいるっていうのよ。 

珠貴は特別なオウチに嫁いだの、わかってるわね?」


「わかってはいたけど、いざ結婚したらなんだか思っていたよりずっと、その……」


「ずっと大変なのはわかるわよ。だから私たちの会にも出席してね。いい?」

   

言っていることはめちゃくちゃだが、結歌に反論する勇気はない。

彼女にかかると理論派の宗もたじたじになるのだから、かなう相手などいないはずだ。

学生時代からこの調子で、周りのみんなを引っ張ってきた。

面倒見が良くて情に厚い、いわゆる姉御肌で涙もろい。

傷心のままイタリアに渡った当時、心身ともに疲れ果てていたが、結歌がいたから辛さを乗り越えられた。

彼女のおかげで、今の私を取り戻すことができたと言っても過言ではない。



「結婚指輪、ありがとう。入籍までに間に合ったのは結歌のおかげよ」


「急にあらたまってなによ……私は宗さんに頼まれたから、その、ちょっと協力しただけよ」



私が婚約指輪には興味がないと知った宗は、先に結婚指輪を準備するため、結歌と蒔絵さんに
協力を依頼したのだった。

二人は私の前でデザインブックを広げ、結歌は自分の結婚指輪を決めておくのだと言いながら、さりげなく私の好みを聞き出し、そして出来上がった指輪は、いま私の指にはめられている。
  


「うぅん、二人には感謝してるわ」


「感謝なんて、照れるじゃない」



先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、結歌は長い手足を小さくして恐縮している。

頼まれれば親身になって走り回り、損得など考えず懸命になる姿は、彼女の愛すべきところだ。



「そっ、そういえば、宗さんのおかあさまから、真珠の指輪をいただいたそうね」


「誕生日のプレゼントにいただいたの。指輪にこだわりはないなんて言ったけど、贈っていただくと嬉しいわ」


「それって、宗さんが贈るはずだった、婚約指輪の代わりでしょう? 

婚約指輪ですよ、なんておっしゃらないところなんて、すが宗さんのおかあさまね」


「うん……」


「あら、ちゃんとわかってたみたいね」


「わかってるわよ、いじめないでよ」


「ふっ、だって、珠貴の幸せそう顔を見たら、意地悪を言いたくなっちゃうの」

 

結歌が、またわからないことを言い出した。

友人に詰め寄られて、私は困った顔をしているはずなのに……

宗が言ってたわね、結歌さんの言葉は黙って聞くこと、と。