ボレロ - 第三楽章 -



朝食は、和食と洋食が曜日ごとにバランスよく配置されている。

今朝は和食の献立が準備されていた。

食材の準備はハウスキーパーの三谷さんにお願いしており、下ごしらえが済んだ材料を調理するため、忙しい朝はとても助かっている。



「この味はなんだろう、最近よく口にするけど」


「塩麹よ。美味しいでしょう」



塩麹と聞いても興味のなさそうな顔をしているが、味の違いには敏感で、まろやかな味わいになるね。

と言いながら、切り身を美味しそうに頬張っている。

宗のアンテナは自分の興味のないものには反応しない。

基本的な料理の手順は頭に入っても、調理の技法や味付けは自分に関係はないと判断するようだ。



「三谷さんのお手製ですって。私も教えていただこうかしら」


「美味いものを覚えてくれるのは嬉しいが、仕事も忙しいだろう。

無理はして欲しくないな」


「無理はしてないのよ。

みなさんが気遣って、結婚したばかりだから早く帰るようにと言ってくださるの。

あなたもそうじゃない? 帰りが早い気がするんだけど」


「うん。予定を動かせない会食以外の日は、早く帰れと平岡がうるさいよ。

先輩がいない方が仕事がはかどります、なんて言ってる」



宗を早く帰すことで、平岡さんの仕事の負担は増えることになる。

それをあえて 「いないほうが仕事がはかどります」 と言えるのは、後輩である平岡さんだからこそ。

しばらくは平岡さんの好意に甘え、夕食の時間をゆっくり楽しませていただくことにした。



「午後から休暇だから、部屋の片付けをやろうと思ってるの。

実家の荷物は休みの日に一括で運び込むつもりよ」


「引越しだが、新しい部屋が決まるまで待った方がいい」


「新しいお部屋のこと、本気だったのね」


「冗談だと思った?」


「そうは思わないけれど、急だったから」


「立地条件にもよるが、こちらがのぞむ部屋の広さがあり、すぐ入居できる部屋は限られている。

ほどなく見つかるはずだ」



すでに何件か候補に挙がっているらしく、部屋が決まり次第、大きな荷物は新居に運び込むことにした。
 


「帰りは10時ごろになりそうだ」


「お食事は?」


「もちろん家で食べるよ」


「わかりました。待ってるわね」



部屋の片付けは急がなくていいよと優しい言葉を残し、宗は出勤していった。