仕事の打ち合わせによく利用したという彼女の言葉を証明するように、浅見さんに気がついたギャルソンが、親しみのある笑みで私たちを迎えてくれた。
「貴賓室は?」 「ご案内いたします」 と阿吽の呼吸の会話のあと、奥の階段へ案内された。
ティールームの二階に設けられた部屋は完全な個室になっており、外の喧騒もまったく聞こえてこない。
しばらく先ほどの続きを話していたが、注文の品を並べ終えたギャルソンが退出すると、浅見さんは私を驚かせ歓喜することを口にした。
「室長、個人的な秘書はご入用ではありませんか」
私が置かれている状況を聞き、自分が役に立てるのではないかと思ったと続く浅見さんの言葉はなめらかだった。
「ぜひお願いします。浅見さんならすべて心得ていらっしゃるもの。
私のほうからお願いしたいくらいだわ」
「ありがとうございます」
「でも、どうして?」
「はっ?」
「浅見さんが、どうしてそこまでおっしゃってくださるのかと思って」
彼女を警戒したわけではない。
秘書として優れた能力のある人が、個人的な秘書を引き受けてくれることは、今の私にとってとてもありがたい。
「ありがとうございます」 と私が彼女に伝えるべきものなのに、私が言うべき言葉を彼女が述べたことから、なぜ? と疑問が浮かんだのだ。
浅見さんは手付かずのケーキを見つめたまましばらく黙っていたが、紅茶を一口含んでから抑えた声で理由を語り始めた。
「室長に隠し事はできませんね。
実は、室長をお見かけしたのは今日が初めてではありません。
何度か機会がありましたが、どうしても声をかけることができず見送ってきました。
今日お声をかけたのは、室長の背中がなんといいますか……」
「寂しそうだった? それとも、辛そうに見えたかしら」
「……もし、あのとき、私が彼の……浜尾直之の言葉に躍らされていなければ、お二人のご結婚は、すでに叶っていたのではないでしょうか。
私がお二人の道をふさいでしまいました。
罪滅ぼしなどと、軽い言葉で片付けるつもりはありません。
何かお役に立てるのなら……いえ、なんとかして力になれないものかと思いまして……」
罪の意識を拭い去ることは難しい。
罰を受けるのならまだしも、許されただけでは抱えてきた罪の意識は消化できないものだ。
彼女には、罪滅ぼしではなく私に力を貸すことで気持ちを軽くして欲しくて、努めて明るい声で 「浅見さんのお気持ちはわかりました。あらためてお願いします」 と伝えた。
笑みが戻った顔がひととき見られたが、室長……と固い声がして、「私からも、お聞きしたいことがあります」 とあらたまった顔で問われた。
「室長が私を許してくださったのはどうしてでしょう。
あれほどのことをして、ご迷惑をおかけしたというのに、ひと言も私を責めることなく、逆に労わってくださいました。
そのことがずっと気にかかっておりました」
「そうですね。浅見さんを責める気持ちにはなりませんでした。どうしてでしょう」
「お話いただけませんか」
浅見さんを許した理由は確かにある。
結歌だけが知る私の思いを話そうか話すまいか迷ったが、彼女に伝えることがこの先の信頼関係につながると思い話すことに決めた。
「これからお話しすることは、もっとも親しい友人のほかには誰にも話したことはありません。
宗一郎さんも知りません。彼にはいずれ話すつもりです」
「はい」
一時は思い出すことさえ苦痛だったことを言葉にできるのか。
自信がないまま頭に思い出し、浮かんだままの言葉を並べていった。



